ガソリンスタンドと人間の性(さが)

さて帰宅しようと原付のエンジンを始動したらどうも「かかり」が悪い。
燃料ゲージを見るとエンプティ寸前で点滅していた。

時間は10時過ぎだ。
職場のある上大岡周辺から1.4kmほどの場所に24時間営業のガソリンスタンドがある。
ここならば鎌倉街道を南下するだけなので燃費はいい。
だが行きつけの磯子のガソリンスタンドに比べると5~6円ほど高い。

いっぽう上大岡から磯子まで行くとなると汐見台団地のある尾根を越える事になる。
こちらは1.3kmの長い長い登り坂だけど、森が丘3丁目の「峠」を越えてしまいえば、あとはエンジンを切ったまま惰性で屛風ヶ浦まで降りてゆける。
お目当ての磯子のガソリンスタンドはそこから700m~800mほどだ。

原付なんてガソリンを満タンにしても6L弱、5円の差なんてわずか30円だ。
ところが人間とは不思議なものでその5円の差が癪となる。
さらに「はたして今の残量であの"峠"を越えられるのか?」という妙なバクチもしてみたくもなる。

そこでバクチをしようと試みた。

結果は失敗だった。
走行中、次第にエンジンがブスブスいいはじめた。
何とか騙し騙し走行を続けたが、ついにガス欠状態となった。
それは峠のある森が丘3丁目の交差点までわずか100mという場所だった。

こういう時は思いっきり原付を揺らすと、タンクの中のガソリンが気化して多少はエンジンかかるようになる。
しかし、こんな上りのラストで始動してももったいない。
原付を降りて手押しで坂を上る。程なくして「峠」となり、あとは惰性で降りてゆく。
途中に一時停止が二か所あるけど、惰性で屛風ヶ浦の駅の先まで来る事ができた。

多少手押ししたので、気化もしているだろうと再びエンジンを始動させたが、結局100mも走らないうちに完全停止となった。
ちょうど屛風ヶ浦の交差点手前だった。

目と鼻の先には「C」のガソリンスタンドがある。
僕の行きつけのお店はここから700mも先にある。「C」よりは5円ほど安い。
ここまで来ると流石に癪だから700mを押し歩いてもよいのだが、明日は仕事が早いので、早く帰りたいところだ。
仕方ないので「C」で給油する事にする。

しかし、ここが人間の...いや自分の「性」というやつなんだろう。
ここまでやったのだから、どうしても「C」でフル給油する気になれなれなかった。
そこで2Lばかりを給油した後、700mを移動してお目当てのガソリンスタンドで残り4Lを給油した。
20円ほど得した事になった。

ところで、原付を押し歩いたので汗をかいてしまった。
喉が渇いてたまらない。

そこでガソリンスタンドの自販機に小銭を投入すると、140円のお茶を買ったのでしたとさ。
(おしまい)