税務署にて

月曜日の話。
納税の証明書が必要になったので、横浜南税務署へ行きました。
発行を待つために椅子に座っていると、僕の隣に勢いよく「ドタン」と座った人がいました。
みると80歳をとうに越えているであろうおじいさんです。

その人はやがて立ち上がると、
職員のいるカウンターに向かっての数歩を倒れこむように進んで、
ほとんど転ぶ寸前の態勢でカウンターにしがみつきました。
どうも足がお悪いようです。

おじいさんが男性職員に何か質問しようとすると、
あっさり「番号札を引いてお待ち下さい」と言われました。
「そりゃあ、可哀想だろう」と思っていると、
女子職員が気を利かせて介添えをしながら、もう一度座らせて、番号札も引いてあげました。

すぐに番号を呼ばれたおじいさん、もう一度立ち上がると、
再び倒れこむようにカウンターへ。
おじいさんはある申請書類を求め、その申請の仕方を尋ねていました。
職員の人が「その申請には何々が必要ですが、今日は持ってますか?」と尋ねると、
「いや、持ってません」とおじいさん。
「では、またご用意の上、お持ちください」と職員。

おじいさんは椅子に転ぶように座り、ひと休みした後に再び立ち上がると、
両手を翼のように広げながら税務署の外に向かって歩きだしました。
女子職員が「介添えしましょうか?」と言うと、
「いや、この歩き方なら大丈夫です」と言い、さらに言いました。
「すいませんが、タクシー呼んでもらえますか」。

さて、おじいさんが求めた申請書ですが、
本当はタクシーで税務署へ来るまでもなかったのです。
インターネット上でダウンロードが可能なもので、
さらにその記入方法や、申告の際に必要なものなどを記載したファイルもダウンロード可能なのです。
ダウンロードして、それに基づいて記入すれば、一往復で済むものなんです。

でもおじいさんは、そんなことは知らいないのです。

今や国会図書館の運営する近代デジタルライブラリーへ行けば、江戸時代から昭和初期に至る貴重な書籍が読めるし、国立公文書館のデジタルアーカイブへ行けば、歴史的な公文書も読める時代です。
そんな風にインターネットは世の中を便利にしましたが、
インターネットを使わない人にとっては20年前と何も変わっていないのです。
いやむしろ切り捨てられているんじゃないかと思います。

「バリアフリー」という言葉が言われる中で、何か重要なものが欠落している。
そんなことを、改めて思い知らされた瞬間でした。

この日、南税務署の後に、各種書類の取得申請ののため磯子区役所の税務課と戸籍課へ行き、次いで神奈川県南県税事務所へ行き、さらに港南区役所の税務課へ行く羽目になった僕も「もう少しなんとかならんのか?」と思った一人です。
だって「明和九年江戸目黒行人坂大火之図」だって「信濃国大地震之図」だって「エロエロ草紙」だってWEB上で閲覧できる時代なのに、なんだか縦割りすぎますよね。