たてぶえなとしごろ

また娘の話。

夜、帰宅したら娘がたてぶえを持ってやってきた。
「お父さん、明日たてぶえのテストがあるんだけど、聞いてくれる?」
といってビートルズの「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」を吹きはじめた。

時折「クラリネットこわしちゃった」的な突拍子もない音を出すのはご愛嬌としても、なんだかノリがよくない。
ぜんぜんあの曲特有のスカのグルーヴを感じない。

“Desmond has a barrow in the market place"
のところを「ププププププププ、ププープー」と吹いている。

「もっと"プップクプップ~プップップップッ、プップッープー"とノリよく吹かなきゃあ」と言うと、
それだと楽譜どおりにならないのだと言う。
楽譜にならないロックというものを無理やり楽譜にするからそうなるんだよなと思いつつ。
「どれどれ、貸してごらん、手本を吹いてやるから」と言うと「いやだ」と言われた。

「いやなものか。ロックなたてぶえを聴かせてやるよ」と言うと、
「絶対いやだ」と言う。

さらに娘は演奏を続ける。
“Molly is a singer in a band"
のところにヘンな8分音符を入れるものだから、
「そこはフツーに吹いたらいいんじゃないの?どれちょっと貸してみぃ」と言うと、
「いやだ」と言う。

「いやなものか。明日までにお父さん完璧なお手本を吹いてあげるよ」と言うと、
語気を強めて「絶対にやめて!」と言われた。

つまりコヤツは「たてぶえなとしごろ」になつてしまったわけのだ。

さて、The WhoのPete Townshendの若い頃のコンプレックスは、その鼻の大きなことだった。

(Pete Townshend)
彼ははインタビューでこんな思い出話をしている。
『ガキの頃、親父が酔っ払って帰ってくると俺に言うのさ。「おい、お前のその"たてぶえ"を何とかしなきゃな"」ってね。俺の心は傷ついたよ。だから俺は思ったのさ。「いつかロックのヒーローになって、嫌でも世界中の奴らにこの"たてぶえ"を拝ませてやる!」ってね』

誰にでも「たてぶえなとしごろ」がある。
それはとても大切なことだ。