鉄砲玉事件

今から15年ほど前、京都のある暑い夜の出来事。

この街に特有の「押しつぶされそうな暑さ」に寝付けなかった僕は、原付でツーリングに出かけた。
山の方へ行けば涼しいだろうと、普段行かないような場所へ行ってみることにした。

不慣れな場所だから道がよくわからない。裏道を走るから、なおさらだ。
途中で行き止まりになってUターンしたり、住宅街の無限ループに入り込んだりしながら山へ山へと進んでいった。

どのぐらい走っただろうか。川沿いの一本道を見つけた。
この道沿いを走ってゆけば涼しかろうと、その道に入ってゆくことにした。
道の入口付近に、警察のワンボックスカーが停車していた。
おおかた速度違反でも取り締まっているのだろう。

ところが....
50mも進んだところ、ものすごい豪邸の正門で行き止まりとなった。
「おや、行き止まりかい」と思った瞬間だった。
僕はサーチライトの一斉照射を浴びたのだった。

ちょうどこんな感じ。

「えっ、何?」と思った次の瞬間に、漠然と自分が大変危険な場所にいることを察した。
あわてて原付をUターンさせると、この袋小路の入口へと引き返そうとした。
そうしたら、入口に建っている建物からオッサンが出てきた。
ジャージ姿で上はTシャツ。Tシャツから露出している肌には鮮やかなイレズミがあった。
しかも木刀を持っている。

よりにもよって、自分が入り込んだのは、そういう関係の家の敷地のようだ。
今この瞬間、鉄砲玉と思われていることは間違いない。

オッサンの前で原付を停めた。
オッサンが僕をじろじろ眺めた上で、睨みつけながら言った「兄ちゃん、何の用や?」
その時の僕の答えは、いま思い出しても答えになっていない。

「この道、川沿いに山の方まで行けないんですね」

そうしたらオッサンは、
「おう、行き止まりや。ここは私有地や。間違えんとき」
と言うと、木刀で「出てけ」という仕草をした。

助かった。

ホッとしながら袋小路から出ると、お次はワンボックスの警察車両から出てきた2人の警官に停止させられた。
警官は「あなた、ここに何の用です?」と僕に尋ねた。
内心「用なんかないことは、見ればわかるだろ」と思いつつ説明する。
暑気払いで夜のツーリングをしていたこと...そういう場所とは知らずに入り込んだこと...

「気ぃつけてください」と言われた。
だけど、何をどう気を付けたらいいのかさっぱりわからない。
せめて路地の入口にバリケードでも築いておいて欲しかった。

このGWに、たまたま現場の近くを通ることがあり、この事を思い出した。
自分はすっかり忘れていた。いや忘れようとした挙句、忘れたのだろう。
家族に話したら、カミさんから「二度と聞きたくない」と呆れられた。
いっぽう娘たちは面白がっていた。だから、
「ワイは鉄砲玉や! 首領(ドン)の首、取ったる!」とふざけて凄んだら、腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。

むろん、今だから言える冗談だ。

ここは広域指定〇〇団の親分〇〇の自宅で、当時は抗争の真っただ中にあったのだ。