狙われた街

管理人のたわごと

今でも忘れられない鮮やかな夕焼けがある。
当時せいぜい幼稚園児か小学校一年生ぐらいだった僕は、その鮮やかな赤い色を今でも強烈に覚えている。その夕焼けをバックに異形の二人のシルエットがクッキリと浮かびあがっていた。
いままさに戦おうとしている二人のシルエットだ。
今でも美しい夕焼けを見ると、必ずあの二人の姿を思い出してしまう....

なんてね。

これは実際の夕焼けの話ではない。TVの画面に広がった夕焼けの話だ。しかも特撮番組のために作られたニセモノの夕焼けだった。

僕が見ていたのは「ウルトラセブン」の再放送だった。メトロン星人とウルトラセブンが夕陽の下で戦うシーンだ。ちょうど1972年ごろの話。世間がやれあさま山荘だ、やれ連合赤軍だ、沖縄返還だという時代に、僕はその赤い夕焼けの美しさに見とれていた。

高校生の時にそういうコトに詳しい友人とウルトラセブンの話になった。その際に「あの夕焼けが忘れられない」という話をしたら、こう言われた
「あれはウルトラセブンのエピソードの中でも最高傑作なんだよ」。
いやいや、夕焼けがキレイだというのと傑作というのは別の評価基準なんだけどね。まあいいか。

彼の話によれば、ウルトラセブンという番組は、何人かの監督が持ち回りでメガホンをとっていたのだが、とりわけある監督がメガホンをとった作品は、子供向け特撮番組とは思えぬほどのクオリティを持っているんだという。

その映画監督の名前が実相寺昭雄ということ、僕が見たのは「狙われた街」という作品で彼がメガホンをとった作品であること。ウルトラセブンのエピソードの中でも最高傑作というほまれ高い作品だということを、僕はその友人から熱く語られたのだった。

その後、ビデオがレンタルできるようになったこともあって、自宅でこの作品と再会することができたのだが、60年代テイスト溢れるクールなカメラアングル、シリアスなストーリー展開といい、意表をついた展開といい、実に素晴らしい作品だった。どうみても大人向けの劇場映画作品だった。ラストの方に四畳半のアパートの室内でメトロン星人とモロボシ・ダンがちゃぶ台を挟んで対話するシーンがあったのだが、「あった、あった、このシーン」と、記憶を掘り起こされたようなショックを受けてしまった。
今日時点ではYoutubeで前半の8分ほどの部分だけが見ることができるが、これを見ただけでも、どうみても子供向け番組ではないオトナな世界を体感できるだろう。そして、このような作品がなぜ子供向け番組の中で製作されたのか、謎に思うに違いない。

5年ほど前に友人にメトロン星人の話をしたところ、「おもちゃ屋で見つけたよ」と、貰ったフィギュアがこれだ。
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このフィギュアは教室に置いてあるので気づいた人もいるだろう。あるとき落下してケースにヒビが入り、メトロン星人の腕もとれてしまったけどね。アソコにあるガラクタの中にはこんな意味があったりする。

さて、そんな凄い作品を作ってくれた実相寺昭雄氏だが、11月29日に逝去された。享年69歳、胃がんだったという。

この話には余談がある。よくよく考えてみると1972年頃の僕の家のTVは、白黒テレビなのだ。
技術屋だった僕の父は粗大ゴミ置き場から拾ってきたTVをホイホイ修理してしまうという信じられない奴で、おかげで他の家ではカラー全盛の時代でもまだ白黒TVを見るという質素な家庭だったのだ。

ありがとう実相寺さん、僕はあの夕焼けを鮮やかな赤色だったと今でも信じているよ。

追記:AZ-Blogさんに「狙われた街」のスクリーンショットが多数あります。ちゃぶ台や夕焼けの画像も...

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