観音崎

ぶうらぶら

僕には娘が2人いる。
もう10年以上の付き合いになるわけだけど、長女がお父さん子で、次女がお母さん子だ。

毎日がお祭り騒ぎのような次女は、おそらく僕に性格が似ているのだろう。
そして長女は全く逆。クールなところがお母さん似だ。
だからなんだろう。反抗期になってからは似た性格の母親とよく喧嘩している。

月曜日のこと。
カミさんは友人たちと昼カラで、それに次女はついていった。
僕は午後から起きてぼけーっとしていると、午後3時ごろ、長女が学校の部活帰りで帰ってきた。

「おい、どっか行かへん?」
「うん、ええよ」
「どこ行きたい?」
「海がいいなぁ」
「海?俺は山へ行きたいよ」
「いや、海がいい」
「わかった、じゃあ適当に行くか」

という関西弁と標準語の入り交ざった会話の後、どこへ行くというわけでもなく、フラっと車に乗った。
そして気がついたら観音崎にいた。

ところがどっこい、いつもの無料駐車場が有料になっているうえに、車の波が続いている。海水浴場で泳ぐつもりで来たわけではないから、これではのんびりできない。

いま手前100mぐらいのところに「駐車場のある美術館らしきもの」があったのを思い出し、そこへ行ってみることにした。
それが横須賀美術館だった。
美術館ならば静かだし冷房がきいているから、のんびりするにはいいだろう。

観音崎への道は何度か通っているにもかかわらず、こんなところに美術館があるとはちいとも知らなかったぞ。

何を展示しているかも知らずに入っていったら....

ブルーノ・ムナーリ展」というのを開催していた。
「ブルーノ・ムナーリって誰だ?」と娘に尋ねると。
「知らん」。
まあとにかく、何だか楽しそうだから入ってみた。そうしたら本当に楽しいんだ、これが。
ブルーノって人は絵本作家で、子供への美術教育にも熱心だったようで、子供にもわかりやすい単純明快な作品ばかり。しかも実際に手に触れて楽しめる作品もあった。
写真などをコピー機にかける際に意図的に写真を動かすことで、機械が生み出す偶然の作品「ゼログラフィーア」とか、旅行先にも持参して室内に飾ることのできる「折りたたみできる彫刻」とか、実にユニークな発想の作品だらけだった。
また、インダストリアルデザインなんかもいろいろやっていて、1970年代チックな照明器具などは、喉から手が出るほど欲しかった。
長女も面白がって、手にとれる作品を使って色々遊んでいた。
凄いぞ!ブルーノ!

別の展示会場に行くと、今度は鉄を素材にした不思議な楽器が沢山おいてあった。誰もがカシーンカシーンと鳴らして楽しめるものだ。音響彫刻家の原田和男さんという人の作品らしい。
鉄のパイプの口をハンマーのようなもので叩くと鳴る楽器、亀裂の入った鉄板のあちこちを叩くと音階の違う音が響く楽器、ギターのお化けみたいのがあって、ステンレス製(?)の弦が、不思議な音階で並んでいる楽器.....実に面白い。

長さの異なる鉄のパイプが何本も並んでいるものを、バイオリンの弓のようなもので奏でる楽器があった。それを親子で必死になって挑戦していると、「ウーンだめだめ、そんな弾きかたじゃあ。」と話しかけてきたおじさんがいた。メガネにヒゲを生やしたそのおじさんは、我々に弾きかたを教えてくれて、この人の目の前で弾く羽目になった。
コツが分かれば、こっちも面白く鳴らすことができる。
そうやって弾いていると「ほう」「うん」とか言ってくれた。

娘が「あの人、この作品を作った本人とちゃうか?何となくそういうオーラが出てはる」と言っていた。
あとで「原田和男」さんでググってみたら、
本当にご本人だった

美術館の屋上は海が眺められる展望台になっていた。
ちょうど上に上がったら、真正面に見覚えのある客船が浦賀水道を進んでいた。

うぉっ「飛鳥Ⅱ」だ!
日本最大の客船をこんなところで見れるとはラッキーだった。

いい美術館だった。
小難しい古典アートではなく、親しみやすくわかりやすいモダンアートの数々。
横浜美術館のように権威主義的ではなく開放的な建物。
前庭からの海の眺めが最高で、自然と調和している。
何よりもカフェテラス(?)が併設されていてゆったりとくつろぎながらお茶など飲める。
今度は9月11日から「ポップ・アート-1960′-2000’s」というのをやるらしい。
また行ってみようと思う。

美術館を出たあと、砂浜で遊ぶ。
最近はだんだんお年頃で難しくなりつつある娘なんだけど....

寄せてくる波にピョンピョン跳ねているところを見ると、なんだかホッとするのだった。
「3時から出て行ったのに、とても楽しかったね」と言われると、なんだか嬉しくなるのだった。

ぶうらぶら