ランディ・ニューマン(Randy Newman)がアカデミー歌曲賞を受賞

上大岡的音楽生活

昨日は「英国王のスピーチ」でアカデミー賞ネタを書いたけど、
まさかランディー・ニューマンが「トイ・ストーリー3」でアカデミー歌曲賞を受賞したとは知らなんだ。
授賞式をテレビで見たフセ君からの情報だった。
「(音楽賞は)トイストーリー3が受賞してました」
「マジ、もしかして白髪のおっちゃんが受賞してなかった?」
「ええ、出ていましたよ」
それならばランディ・ニューマンに間違いない。
おいおい、こっちの方が自分的には重要じゃないかと思いつつ、今日は彼のことを記事にしてみる。

ランディ・ニューマンは1943年生まれだから、現在もう68才になる。
現在では映画音楽家のイメージが強いけど、僕より前の世代では、むしろシンガー・ソングライターというイメージが強い。そしてもっと前の世代では(派手に売れた作品は少ないものの)、様々なシンガーにカバーされ続けるような名曲を生み出した職業作曲家としてのイメージが強いだろう。

その音楽にはスティーブン・フォスターが叙情的に描いたような「古き良きアメリカ」「ノスタルジア」という言葉がとてもよく似合う。独特の美しさに満ち溢れている。

(Randy Newman “Sail Away" -1972- 奴隷商人が「アメリカでは誰でも幸福になれる」と黒人を騙している歌)


(Randy Newman “Louisiana 1927" -1974- 1927年のルイジアナ大洪水を歌っている。訳はこちら)


(Randy Newman “Birmingham" -1974- アラバマ州の都市バーミングハム賛歌なんだけど、額面どおりに受け止めていいのやら?)


(Randy Newman “Short People" -1977- 「チビは生きる理由がない」という歌詞で放送禁止となった作品。スタジオバージョンではイーグルスがバッキング)

音楽的には1920年代以前の音楽に多大な影響を受けているのだと思う(それがすべてではないけど)。しかし、そんな美しいメロディーに乗っかってくる言葉の数々は、辛辣さと皮肉に満ちている。

職業作曲家時代のランディは、1966年にジュディ・コリンズに提供した「悲しい雨が降る(I Think It’s Going to Rain Today)」が最も有名な作品だろう。
僕のiPodに入っているものだけでも何と19名のアーチストによって歌われている。1曲のカバーバージョン数ではMy iPodの最多記録だ。昨年(2010年)にはピーター・ガブリエルがアルバム「Scratch My Back」でカバーしている。この19曲の「I Think It’s Going to Rain Today」に関しては奇しくも先月から書き溜め用の記事として歌詞を訳しているところだった。またいずれUPするかもしれない。

(Judy Collins “I Think It’s Going to Rain Today" -1966-)

また「朝日のあたる家」で有名なアニマルズのキーボード奏者アラン・プライスは1967年頃から好んでランディの曲をシングルとしてリリースし続けているし、1970年にはハリー・ニルソンが「ニルソン・シングス・ニューマン」というランディ作品のカバーアルバムをリリースしている。

彼はこうした職業作曲家の仕事を1962年頃から始めた。この時期の提供作品のみを集めた「On Vine Street: The Early Songs Of Randy Newman」というコンピレーションも近年リリースされている(教室に飾ってある)。このコンピレーションによるとFleetwoodsの"They Tell Me It’s Summer(1962)"という曲が最も古い部類の作品になるようだ。

(Fleetwoods “They Tell Me It’s Summer" -1962-)

また、彼にとって唯一の4枚組ボックス・セットである「Guilty : 30 Years of Randy Newman」には、彼自身がプロモーション用にレコーディングしたものの、結局日の目を見なかった「ゴールデン・グリダイアン・ボーイ」という貴重なシングルも収録されている。

(Randy Newman “Golden Gridiron Boy" -1962- しかしYoutubeには何でもあるなぁ~)

そんなランディ・ニューマンのシンガー・ソングライターとしてのデビューは1968年。
初期の5枚のアルバム
「Randy Newman (1968)」
「12 Songs (1970)」
「Live (1971)」

「Sail Away (1972)」

「Good Old Boys (1974)」
はどれもこれもスキのない名盤だ。
特に「Good Old Boys」は火事の時に持って逃げたい名盤10枚に入っている。

僕がこのあたりのアルバムにハマったのは、大学生の頃だから1980年代の後半。
実はリアルタイムのランディ・ニューマンに関してはあまり知識がなかった(というか情報がなかった)わけだけど、この頃のランディはもっぱら映画音楽のサウンドトラックを書いていた。当時の作品としては「ラグタイム」「レナードの朝」「わが心のボルチモア」などのスコアが有名だ。

それと忘れてはいけないのが「サボテン・ブラザーズ(1986)」。
みうらじゅんが「世界最強のオバカ映画」と絶賛したこの映画では、エルマー・バーンスタインがサウンドトラックを書いているけど、そのオバカ加減に卒倒しそうになる主題歌はランディの作品だ。
そして、この映画にランディ自身が出演していることはあまり知られていないかもしれない。

(この「歌うヤブ “Singing Bush"」がランディ本人)

そんなランディの音楽と思いもかけず再会したのは、子供が生まれてからだった。
まだ長女が1歳ぐらいの時、業者さんに頂いた「トイ・ストーリー」のビデオで、あの歌声に再会したのだった。

(Randy Newman “You’ve Got a Friend in Me" -1995-)
べらんめえ口調で場末の酒場が似合いそうなシンガーソングライターが今ではすっかり映画音楽の作曲家になっていることにも驚いたけど、その後、「トイ・ストーリー」以降、ピクサー映画の一連のサウンドトラック(「バグズ・ライフ」「トイ・ストーリー2」「モンスターズ・インク」「カーズ」)をランディがずっと手がけていったのにも驚いた。
何よりも凄いのは、一連のサウンドトラックを買うことで子供たちと最初に共有した音楽が「ランディ・ニューマン」となったことだ。
自分はてっきりビートルズあたりで親子で盛り上がることを予想していただけに、あまりにも意外な結果だった。

そんなランディだけど、およそアカデミー賞に縁がなかった。
1969年に単発の仕事で「Cold Turkey」のサントラを書いている(4枚組BOXでは「Rev Running」というスコアが聞ける)が、この映画は商業的に失敗。ノミネートすらされなかった。
そして1981年の「ラグタイム」以来、毎年のようにノミネートされながら、毎年のようにスカを掴まされ続けた。何とその回数は16回!。
ようやく2001年の「モンスターズ・インク」の「君がいないと “If I Didn’t Have You"」でようやくアカデミー歌曲賞を受賞した際、「皆さんに哀れんでもらおうとは思いません」と彼らしいジョークでスピーチした。

そして一昨日、ランディは「トイ・ストーリー3」の主題歌「僕らはひとつ “We Belong Together"」で10年ぶり2度目のアカデミー歌曲賞を受賞したのだった。
この時の彼のスピーチは「私の受賞確率は決してグレートなものじゃない」だった。

(Randy Newman “We Belong Together" -2010-)

彼は実に50年近くにわたって最良の音楽を提供し続けている。
音楽的なピークをこれだけ長期間にわたって持続できるというのは、もはや驚きに値する。僕は彼の事を最高のソングライターだと思っているし、人々に愛される、人々が口ずさめる曲を出し続ける点で「現代のフォスター」だと思っている。
中でもオススメの3曲を紹介する。

(Bonnie Raitt “Feels Like Home" -1995- 彼が書き下ろしたミュージカル"ファウスト"より。ボニー・レイットが歌うこの曲は、何度聞いても飽きない好きな作品。リンダ・ロンシュタットやノラ・ジョーンズがカバーしている。「自分の家のようにくつろいで」というこの曲は最近のアメリカの結婚式定番ソングになっているんだそうだ)


(Peter Gabriel “That’ll Do" -1998- 映画「ベイブ、都会へ行く」のエンディング。ケルティック風のサウンドにあわせて、ピーターガブリエルが歌う名曲。歌詞もすばらしい。)


(James Taylor “Our Town" -2006- ピクサーのアニメ「カーズ」より。変わらないことの持つ強さ、美しさってこれだろう)

最後に小ネタ。
僕が学生の頃持っていた「べらんめえなシンガーソングライター」というイメージと、彼のリアル・ライフとが全然違っていたのを知ったのは「トイ・ストーリー」以降だった。
彼の父はお医者さん。彼の一族は映画音楽家だらけ。特に叔父のアルフレッド・ニューマンは「20世紀フォックス」の最初のファンフーレを作曲したことで有名。

(ランディに関しては拙記事「ルイジアナ1927」も参照あれ。6年前の記事ですが。)

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