砂の器(1974年映画版)ロケ地を行く [03]
出雲八代駅 -亀嵩駅ホーム
JR亀嵩駅から宍道方面へ2駅。ここに出雲八代駅があります。
亀嵩から行く場合、この地方の中心である出雲三成の街を通らずとも、山間を抜ける近道があります。
一部離合困難な道もありますが、狸が駆け抜けてゆくような長閑な田園風景の中を通ってゆけば、自然とここにたどり着きます。
国立療養所に入所されられる父本浦千代吉、そんな父を追いかけてきた秀夫はこの線路を駆けてきます。
『宿命』の父子、永遠の別れのシーンです。
亀嵩駅ホームとされていたのは、出雲八代駅でした。
今でこそこの駅も単線となってしまいましたが、撮影当時はお向かいのホームから撮影できたからでしょう。
亀嵩駅は単線のため、なかなか広角の絵が撮りにくかったようです。Wikipediaによれば亀嵩駅を撮影に使わなかった理由として「そばの看板が邪魔になったのと、崖が迫っていてカメラが引けなかったから(カメラマン川又昻の証言)」だそうです。
興味深い事に橋本忍のオリジナル脚本では、「秀夫 駅に続く坂道をかけ上がる。駅舎の横の柵を飛び越える」と書かれています。
実際の亀嵩駅前にも坂道はなく、広場があるだけです。ところが出雲八代駅には(坂道とは言えないものの)50mほどの軽いスロープがあるのです。亀嵩の近隣の駅では一番脚本のイメージに近いと言えるでしょう。
橋本がどれだけ現地を取材したのかわかりませんが、いずれにせよ現場の判断で「坂道」が「線路」になってしまったのでしょう。
せっかくですから、本当の亀嵩駅の画像も紹介します。
八川駅 -亀嵩駅駅舎
四季の旅の末に巡礼の親子がたどり着いたのが奥出雲の「亀嵩」でした。
体調を崩した本浦千代吉は、亀嵩駅前にある地蔵のお堂の前で倒れかかり、次いで金毘羅灯籠に座り込むシーンに続きます。
また今西警部補が警察のジープで亀嵩へ向かうシーンにもこの場所が、使われています。
橋本忍のオリジナル脚本では今西はジープから降りて駅舎の駅名札を眺めるという設定になっていますが、このシーンは実際には撮影されませんでした。
いずれのシーンでも実際の亀嵩駅では撮影されておらず、二駅ほど備後落合駅寄りの八川駅が使用されています。
こうして考えると清張の原作...映画のイメージで読むとガッカリします...を人間ドラマの域に膨らませたのが橋本忍だとすれば、野村芳太郎監督はカメラを通して更に芳醇なイメージを与えたと言えるでしょう。
映画は魔法です。ここが「亀嵩だ」といえば、出雲八代も八川も亀嵩になる。
映画を観て首を傾げるのは地元の人たちで、全国の映画ファンは亀嵩に想いを馳せる。
もし彼の求めるイメージを理解するスタッフが奥出雲を駆け回って、これらのロケ地を探してきたのだとすれば、それは「映画とは誰が創るのか?」という問いかけに対するひとつの答があるのではないかと思いました。
ディスカッション
コメント一覧
親子が巡礼した先に長野県千曲市森の杏の里があります。地域が一面杏の花で埋め尽くされる3月下旬から4月上旬にお越し下さい。
>北澤様
情報ありがとうございます。
ぜひ季節に....来月ですね。伺いたいものです。
どこかと思えば姥捨の棚田の近くですね。