「陰謀」ぢゃないよ。「偶然」ってやつさ。

世には「陰謀」という言葉がある。
「はかりごとをこっそりめぐらす」というのは、
怪しげな雰囲気120%で、誰もが気になることだろう。

かつては、ケネディ大統領の暗殺事件の陰謀説が有名だった。
近年では、ダイアナ妃の事故死に関する陰謀説なんていうのが流れている。

そんな「陰謀」は時折、僕の常識をはるかに越えて肥大化することがある。

「アポロは実際には月に着陸していなくて、あれはアメリカ政府の陰謀だ」
「地球が丸いと我々が信じ込まされているのは陰謀だ」
なんて言われると、科学的反論はできないものの、
僕の持っている常識を凌駕している。

30年以上生きていると、
「陰謀などではなく、真実は単純なんじゃないか」
といった結論を導きだしてしまうことも、数多くある。

ではこれはどうか?
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僕は個人的に「下山事件」を扱ったサイトを運営している。
昨年から遅々として更新が進まない状態となっていた。

それを再び書き進めていた矢先に事故にあってしまった....

まずその前に「下山事件」について説明しておきましょう。

この事件は昭和24年に発生した。
7月のある早朝、下山定則国鉄総裁が日本橋にある三越の本店で失踪する。
そして、その晩に常磐線で轢死体となって発見されたのだ。
ややこしいことにこの前日、国鉄では職員の人員整理(首切り)の対象者リストを発表した直後だった....

当時の日本は超不景気だった。
多くの企業が従業員の人員整理をしなければ、
経営が成り立たない状態まで追い込まれていた。

一説には全国で百万人の失業者が生まれるだろうといわれていた。
そのうち、一割近い十万弱の人員整理をおこなわなければならなかった国鉄は、社会の注目の的だった。

共産党による「9月革命説」なんてことが噂されていた時代だ、
(実際にはそんな力はなかったけど)
国鉄の労働組合と雇用者との全面対決が発生すれば、
日本の経済がマヒすることが予想された。

つまり国鉄の人員整理の成否が、
その後の日本経済や社会構造のカギを握っていたのだ。

そんな中、絶妙なタイミングで下山事件は発生した。

事件の発生した瞬間、国民多くが、
「共産党か組合員による犯行である」と直感した。
マスコミの大半もそれを匂わせる記事で紙面を煽った。

誰もがそう直感し、そして下手人と思われる人たちへの嫌悪感を感じた。

この事件により、共産党や労働者運動は一気に後退、
結果的に日本の企業はスムーズな人員整理に成功した。

翌年には朝鮮戦争が発生する。
「特需」に沸く日本経済はV字型に経済回復へと転じ、
高度経済成長への道を進んでゆく....
その分岐点にあったのが、この事件だった。

下山事件は「戦後最大の謎」と言われるのにふさわしい事件で、
いまだに自殺説と他殺説が対立している。
そして洛陽の紙価を高めるほどに、数多くの書籍が出版されている。

「共産党の陰謀だ」という本
「いやいや、そう匂わせようとしたGHQ(アメリカ占領軍)の陰謀だ」という本
「単なる労働者の怨恨」という本
「人員整理を苦にしての自殺」という本
「ロシアの特殊機関の陰謀だ」という本
「北朝鮮の陰謀だ」という本
「私は犯人を知っている」という本

この事件によって恩恵を蒙った人は限りなくいる。
もし他殺説が本当ならば、暴露されて困る人も限りなくいるだろう。

そんな事件について自他殺説どちらにも偏らない立場、
かつ無思想無宗教の立場で、ノンビリ書いていたのが、僕のサイトだった。

それが先述したように、仕事が忙しくなってしまい、
大幅な更新もできぬまま、一年ほど放置していた。

それがようやく一段落したので、空いた時間を使って3月ごろから
じょじょに書き進めていた。書き溜めたらUPしようと思っていた、
4月23日、事故に遭ったのは、そんなタイミングだった。
おかげで更新は中断し、そのまま2ヶ月も放置状態だ。

僕が面白いなと思ったのは、僕を轢いた加害者の方。

この方はある企業に所属しているのだが、
その企業は昭和24年当時も存在していた。
しかもその当時、国鉄と同様に人員整理に悩んでいた企業だった。
そして、下山事件の発生によって、この企業も人員の整理がスムーズに進んだという事実がある。

そして、当時のトップが回顧録で「下山事件のお陰で会社の再建ができた」とハッキリ明言しているのだ。

ホイよ!
松本清張風の推理小説が一冊書けるネタの出来上がりでござんす。

僕がもし「下山事件」にオーソリティとして社会的に有名な人だったら、陰謀説が流れたんじゃないだろうか?
「WEBサイトで真実を追究する管理人、謎の事故」なんてね。

てなことは絶対ありません。

理由1:真実や陰謀を追求しようとして運営しているんじゃなくて、事実関係に小ネタを加えて時系列的に情報を整理しているだけです。

理由2:僕より前に事故死しそうな人がいくらでもいる。僕はその行列の最後尾に脇見しながら並んでいる。

理由3:あれが陰謀ならば、稚拙すぎる。

理由4:僕は誇大妄想狂ではない。

前々回にも書いているけど、
僕は事故の2週間程前に加害者の方の企業博物館へと偶然遊びにいっている。
その際、ちょっと貴重な音声資料をお貸しし、博物館の方から
お礼状を頂いたのが事故の数日前だったという経緯がある。

人間というのは道路でヒョンな形で轢かれたにせよ、
こうした幾重にも重なった「偶然」に繋がれている可能性があるのだ。

最後にもうひとつの「偶然」について語ろう。
僕を119番通報してくださった方は、
何と下山総裁のお孫さんと同級生だった....