かたみわけ

管理人のたわごと

僕が歴史好きなのは父方の祖父の影響だとよく言われる。
子供の頃、祖父の家に行くと、祖父の本棚から歴史の本を持ち出して、掘りごたつのに寝転がって読んでいたものだ。

たとえばこれ。
図説日本文化史大系
「図説日本文化史大系(小学館)」(昭和33年 全14巻)
子供だから難しい文章はわからない。
ただ、この本に収録されている明治大正昭和時代のこんな感じのレトロな写真を眺めているのがなぜか好きだった。
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(12巻P354「洋装のファッション=ショー」の画像)

僕が大きくなるにつれて、祖父は自分の持っているいろいろな書籍を見せてくれた。
祖父はいわゆる希少本コレクターで、著名な作家の初版本なんかをよく集めていた。
「これは価値があるんだよ」なんていって、古ぼけた書物をいろいろ見せてくれたものだ。
僕は本なんて読めれば文庫本でも何でもいいという考え方だったので、こんなボロボロの本にはあまり価値を感じなかった。

さらに祖父は茶器や陶磁器などの「やきもの」コレクターでもあった。
僕が生まれるずっと前の話だけど、骨董品屋の店先で掘り出し物の茶器を見つけた祖父は、家に帰ってくるなり、桐の箪笥を持ち出していった。それが茶器に化けて帰ってきたこともあるらしい。
そんな祖父は1994年に亡くなり、
今年の4月に祖母も亡くなった。

日曜日のことだ。
父が突然、
「今日、おばあさんの遺品を形見分けしにゆくけど、お前行くか?」と誘ってきた。
祖母の遺品はすなわち15年前になくなった祖父の遺品でもある。
「僕はやきものはよくわからないけど、たしか魯山人のシンプルな小皿があったでしょう。おじいさんが自慢していたヤツ。あれを頂いてもいいかな?」
「あれは貴重だからお前にはやらないよ」
「それじゃあ本を貰って帰るさ」
好きだった歴史の本などは、思い出の品として欲しいところだ。そこで父を車に乗せて杉並へと向かうことにした。

父と叔父は隣室で膨大な茶器と格闘し、僕は廊下の書棚で膨大な書物と格闘することにした。
書物の正確な価値は、よくわからないけれど、学生の頃、神田神保町の古本屋街をうろうろしていた経験が役に立ちそうだ。
4時間の格闘のすえ、こんな感じに分類した。

①僕が欲しい本→僕の本棚行き
②希少価値があるけど、父も僕もいらない本→ブック・オフなどではなく、きちんとした古書店行き
③希少価値があり、手放したくはない本→父が遺品として引き取る
④陶磁器に関する書籍→陶芸が趣味の叔母にみてもらう。
⑤価値があるとは思えず、処分するしか手段のなさそうな本

膨大な量となる④と⑤に関しては、後日、寄付なり処分なりを考えるとして、
今日は①②③を段ボールにつめて持ち帰る。
これだけで段ボール6箱になった。

③に分類したものはこんな本があった。
気違い部落紳士録
「気違い部落紳士録(時事通信)」(きだみのる 昭和25年 初版)
瘋癲老人日記
「瘋癲老人日記(中央公論)」(谷崎潤一郎 昭和37年 第五版)
我輩は猫である
「我輩は猫である(大倉書店)」(夏目漱石 大正13年 97版)
倫敦塔
「漾虚集(大倉書店)」(夏目漱石 明治39年 初版)
このうち、おそらく本当に価値があるのは「漾虚集」だけだと思う。
あとは初版でないものなど、このご時世にそれほど高額になるとは思えなかった。
ただどの本も装丁が美しいので、将来どこかに飾るために大切にしまっておくことにする。

翌日、②を父とともに近所の古書店へと持って行く。
ブックオフは本の状態だけで査定するから、初版や希少本であることは、考慮されない。またそういう書籍を避ける傾向にある。
だから近所にある老舗の古書店へと行く。鎌倉で有名な古書店の支店だ。
ちょうど土砂降りの雨だったので、店頭に駐車している僕の車の中で、査定することに。
ご店主みずから本を分類してゆく。
「ああ、この方の本は珍しいですね~状態もいいなぁ、でも買い取る程の需要がないんですよね~」
「これも状態いいなぁ~、でもウチで売れるかなぁ~」
「これは珍しいから、お客さんの方で大事にされておいた方がいいですよ」
という会話の端々に、この店主の本に対する愛情を感じる。
この店主は信頼に値する人だと、我々は感じた。

最後に店主が言った。
「おじいさんの所蔵していた本が、これだけとは思えません。もっともっと大量に本を持たれていたはずですよね?」
図星だ。昭和63年に自宅を建て替える以前、2階の祖父の書斎にはもっと膨大な量の書籍があった。それらがどこでどう処分されたかはわからないが、新築になった際には、今あるように本棚1コ分しか書籍は残っていなかったのだ。

結局、我々が持参した段ボール5箱分の書籍は1万5千円で売れた。
高からず、安からずで妥当な線だと思う。
親父にお金を渡そうとしたら、
「いらないよ、お前の昨日の労働量から考えたら、妥当だろう」

というわけで、親父の手元には上の画像のような大切な本が残り、
僕の手元には1万5千円と「図説日本文化史大系」全14巻が残った。

あとでインターネットで気付いた。
実は「図説日本文化史大系」こそ、全セットで3万~5万はする価値のある本だったのだ。

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