家出と東京ぼん太

Youtubeで東京ぼん太の漫談を見ていて、ふと記憶に蘇った事がある。
あれは幼稚園の年長の時だった。突如として家出がしたくなった。理由なんかない。

母に「これから家出してくるね」と言い、ブルマァクの怪獣人形を唐草模様の風呂敷に包んで、背中に背負った。
もしかしたら母が背負わせてくれたのかもしれない。

東京ぼん太「あんたしっかりしてね(1967)」(「なぐさめ」cw)

母が「あら、東京ぼん太みたいね」と言って笑っていた。
僕は東京ぼん太を知らなかったけど、「そういう人がいるんだな」と思った。
もしかしたら、そうとは知らずにテレビで東京ぼん太を見ていて、それを真似たのかもしれない。

外はもう日没で、薄暗くなっていた。

僕は団地の5階から階段を降りて、外へ向かって歩き出した。
団地のある四街区を半周ぐらいはしたから、500mぐらいは歩いたと思う。
見上げると、空にはお星さまが輝いていた。

不思議と怖いという感覚はなかったけど、家出というのは寂しいものだと思った。
だから家出はおしまいだ。

五号棟に辿りつき、階段を上り「ただいま」と言って帰宅した。

いま考えると、こんな時間に家出を見送る母も母だし、僕も僕だ。
確かに僕の母はブッ飛んだ人だっかもしれないけど、むしろ常識的過ぎて困るぐらいの人でもあった。
この事に関しては「今の感覚では理解できない呑気な空気があった」としか言いようがない。

現実には誘拐事件は日常的にあった。
それどころじゃない。僕の住んでいた街ではこの翌年、本当に誘拐殺人事件が発生したのだ。