炎上と戦争

櫻井翔さんが、真珠湾攻撃に参加した搭乗員へのインタビューで「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」と尋ねた事が炎上しているという事をデスクトップのニュースで知りました。ただそれだけでは何の事だかわかりません。

歴史は好きですし、自分の頭で判断してようと該当するインタビュー記事を読んでみました。

真珠湾攻撃から80年・・・103歳元搭乗員語る

櫻井さんが、真珠湾攻撃で雷撃機の搭乗員だった吉岡政光さん(103歳)にインタビューしたものです。

該当部分も読んでみましたが、素晴らしいやりとりだと思いました。 それに対する吉岡さんの答えもしっかりしたものでした。

櫻井さんは前段から慎重に「戦時中というのはもちろんですけど」と前置きをしています。つまり「その事を自分は理解した上で質問をしますが」と吉岡さんに伝えているのです。その上で「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」と尋ねています。ここの部分も別に吉岡さんを「あなたは人殺しだ」と非難しているわけではありません。そういう「感覚」がそういう状況下であるものなのでしょうかと尋ねているのです。「感覚」という言葉の選び方も、きちんと選ばれています。

これが「あなたはアメリカ人を殺したわけですが、罪の意識はありますか?」だったら問題が大ありですが、兵士を経験した方に遠回しな質問をするよりも、櫻井さんの質問は的を得たものだと思いました。

そして吉岡さんも、おそらく彼が後世に一番伝えたかった「戦争はしちゃいけない」という言葉をもって答えているのです。
太平洋戦争の発端となったあの戦いに参加された方の言葉だからこそ重みがあります。

力強い意志を持つ方同士の重みのある対話だと思いました。

Wikipediaより

「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」

この問いかけから、僕はずいぶん前にみた報道番組を思い出していました。
原爆の開発に参画し、広島上空で原爆のキノコ雲を撮影した人が広島を訪れ、そこで被爆者の方々と対話するという番組でした。
調べたら番組は2005年のものですが、最近リライトされた記事がありました。

「あの時、原爆投下は止められた」原爆開発科学者と被爆者の初対話 全内容

マンハッタン計画に参加し、原爆を投下したエノラ・ゲイに同行した観測機グレート・アーティストに同乗し、あの有名なキノコ雲の映像を撮影したハロルド・アグニューと被爆者の対話です。被爆者に「(原爆を投下した事を)謝って欲しい」と尋ねられたアグニュー氏は「私は謝らない」と答えています。

アグニュー氏と被爆者の間には、目に見えない高い壁を感じましたが、一方で双方が唯一一致した考えがありました。
それは「戦争は絶対にしてはならない」というものでした。

今回の炎上は、言葉が歪められて独り歩きしているとしか自分には思えません。
それらしく演出された記事も見かけました。

そうした「炎上」をまるで「局地紛争」のようです。それが燎原の火の如く広まれば「戦争」になります。
リアルな世界もこれを繰り返してきました。相互の不理解が憎しみとなり断絶となり攻撃となります。やがてそれは拡大し全面戦争となります。

炎上のメカニズムと戦争に至るメカニズムは驚くほどよく似ています。
焚きつけるメディア、踊らされる人たち(国民)、引きずられる人たち(政府)、このメカニズムがある限り人類は戦争から逃れられません。
大声で言う者が目立ち、まるでそれが世論であったかのように空気が形成されてゆく。

「汝の隣人を愛せ」とはよく言ったものですし、踊らされる前に自分の頭で考える事の大切さを感じた出来事でした。