第二次世界大戦勃発を知らせる号外
ある日のこと…..
とある古本屋さんへブラリと入った。
いろいろ漁っているうちに稲垣史生の「江戸編年事典(青蛙房)」を発見。「買っとけ!」とばかりにレジに向かった。
そうするとレジの近くに大型本が横積みされていて、その中の2冊の赤い本に目が入った。
タイトルはこうだ。
「大東亜戦争画報」(昭和16年)
「大東亜戦争画報」(昭和17年~昭和18年)
パラパラめくってみると、どうも戦前の同名雑誌のバックナンバーを一冊に製本したもののようだ。
復刻版ではなく、明らかに当時のものだ。
「これは…..」とお店の人に尋ねてみた。
「ああ、これですか」とお店の店主。
店主の話によると、この本の持ち主は製本屋さん。
自分の持っていた過去の雑誌を自分で製本したものなんだそうだ。
ところがその方は亡くなり、遺族がそれを処分するため下取りに出したものなんだそうだ。
「実は、その本だけじゃないんです」
といってレジの置から何冊もとりだしてきた。
大阪毎日・東京日日「支那事変画報」(昭和12年~昭和14年)
アサヒグラフ「支那事変写真集」(昭和12年~昭和15年)
内閣情報部編集「写真週報」(昭和14年~昭和15年)
内閣情報部編集「写真週報」(昭和15年~昭和16年)
うひゅあ、何か知らんけど、す凄い…..
1年以上前にお客さんが「必ず買うから」と言って取り置きを依頼したらしい。ところがその人が一年たっても取りにこないのだという。
そして「あなたが欲しいのならば、どうぞ」と言われた。
誰も「欲しい」とは言っていないぞ。
この雑誌、バラのバックナンバーなら神保町あたりにありそうだ。
だけどこうやって製本されているのは珍しいんじゃないか?
何よりもこの6冊の本が「ねえ私を買って」と、とんでもないコトを言っている。
おそるおそる値段を尋ねると。
「いや、もうあなたの言い値で結構です」と言われてしまった。
そこで僕が「一冊こんなもので、6冊合計でこれではいかがでしょうか?」と、ある金額を提示すると、
「ああ、それで結構ですよ」と顔色ひとつ変えずに承諾された。
そんなわけで大型本6冊を持って帰った僕は、カミさんには呆れられ、子供たちからは「ひょえー」と言われた。
パラパラっとめくってみた。
このうち「支那事変画報」は毎月8日発売の月刊誌だったようだ。
「画報」とは名のとおりでグラビア誌のこと。そして内容はタイトルどおりで戦争一色だ。
戦地での日本軍の活躍や現地人との交流風景などが記事とともにふんだんに織り込まれていた。
そして、昭和17年1月8日号から「大東亜戦争画報」と改題されているのは、前年12月8日の真珠湾攻撃をきっかけに戦局が拡大したからに他ならない。
そんな昭和17年1月8日号は真珠湾攻撃を成功させた山本五十六が表紙だ。
この号を開いてゆくと「米太平洋艦隊全滅す 航空兵力も全滅」とあった。
軍事機密だったのか、編集段階では写真が公開されてなかったのか戦闘の模様は想像画だ。
これ一冊で記事がいくつ書けるかわからないネタの宝庫なんだけど、キリがないから省略する。
でも本当に凄かったのは別にある。
このうちの1冊の表紙を開いたところ、数ページにわたって新聞の号外がスクラップされていたのだ。
おそらくこの本の持ち主(製本者)が、コレクトしていたものを貼っていったのだろう。
この内容が凄かった。
これは昭和14年9月1日の朝日新聞の号外。
「独波両軍国境で激戦中」とある。「独」はドイツ。そして「波」はポーランドだ。
その記事はこう書かれている。
【ベルリン三十一日発 同盟至急報】三十一日午後八時(日本時間一日午前四時)正規軍の支援を待つポーランド便衣隊は上部シレジアのグラウヴィッツに侵入し同市放送局を占領その二ケ所に於て越境し来り目下独波は国境において激戦中である。
これを意訳するとこうなる。
【ベルリン8月31日発 同盟通信社による至急電】8月31日午後8時(日本時間の9月1日午前4時)、正規ポーランド軍の支援を待っているポーランド軍の一般市民を装った兵隊たちが、ドイツ領土であるライン川上部シレジア地域のグライヴィッツ市に侵入し、市にあるラジオ放送局を占領した。あわせて二ヶ所において国境を越えてきた。現在ドイツ・ポーランド軍は国境付近において激しい戦闘を行っている。
今ではこの「グライヴィッツ事件」がポーランドからの攻撃ではなく、単なるナチスドイツのでっちあげ事件だったことは3歳の子供でも知っているけど、これによりドイツ軍のポーランド侵攻が始まった。
歴史好きな人ならわかると思うけど、これは第二次世界大戦勃発を知らせる号外だったわけだ。
そして9月3日、イギリスがドイツに宣戦布告。「俄然欧州大動乱勃発」とある。
人類史上最悪の6年間が始まった….
これ以外にもこの本には当時の地図など色々なものがスクラップされている。
そのひとつひとつが記事になってしまうような価値がある。
12月5日に叔父から貰った祖父の遺品もそうなんだけど「好きな人間」というものはそのジャンルのモノを引き寄せる傾向がある。ただし今回ばかりはその内容の濃さに恐怖を感じている。
ディスカッション
コメント一覧
素晴らしい本手に入れましたね。
うらやましいです。
それにしても好きな人には、なぜか素敵なチャンスが来る物ですね。
今の感覚で、振り返って当時を判断するのと、その時代に在っての判断には、当然差があるから、当時を学ぶと、正しく事の本質が垣間見れるのではないですか。
>名犬さん
素晴らしくて、かつこのストライクゾーン加減が恐ろしいぐらいです。
おっしゃるとおりで、おじいさんの日記もそうだったんですが、当時の人間が当時の視点で感じた感覚、これがわからないと何も語れないと思います。