長野とか笹子トンネルとか
もともとあのトンネルを通るのはあんまり好きじゃなかった。
....なんて書くと「事故を予感していた」となるかもしれないけど、そんな霊感があるのならばもっと世渡りが上手いはずだ。
単に渋滞が嫌いなだけだ。
もともと笹子トンネルは渋滞のメッカだった。
峠の真上にあるから、坂道渋滞が発生する。
さらにトンネルの手前で車線規制をしている場合もある。
トンネルの天井が低い、っていうのも渋滞の原因だったかもしれない。
わざわざお金を払って渋滞に巻き込まれるぐらいならば、時間がかかっても国道20号をゆるゆる走った方が楽しい。
運がよければ、高速より早い結果に終わることもある。
国道20号の笹子峠越え(特に上り方向)は、だいたいスイスイ抜けられることが多いし、何よりも「峠越え」感が楽しめる。
だから3回に1回ぐらいは勝沼IC~大槻IC間は下道で抜けていた。
12月31日は長野県の安曇野から横浜へと戻ってきた。
急ぐ旅じゃないから「日本アルプスサラダ街道」などで下道を諏訪まで抜ける。
途中で雪景色を堪能し、
路上で昼寝する猫を「しっしっ」と追い払い、
甲信名物「ハッピードリンクショップ」でジュースを買い、もう一本当たって狂喜乱舞し、
下諏訪の「更科」で超美味しい鴨南蛮を食べ、午後2時すぎに諏訪ICから中央道に乗った。
普通ならば、この付近では高速を使わないのだけど、紅白歌合戦の「ヨイトマケの唄」を見たいという気持ちが先行していた。
珍しく太陽の明るいうちに中央道上りを走らせる。だから気付いた。
中央道では常に富士山が真正面に見える、ってことを。
中央道はスイスイ。渋滞もなく一時間ちょっとで前々日に対面交通で仮復旧した笹子トンネルに到達した。
「つり天井」を取っ払った笹子トンネルは、対面通行にもかかわらず、とても解放的だった。
ところどころで壁面のススらしきものが目についた。排気ガスではこんな黒いススにはならないだろう。
事故の起きた下り線側から、排水溝か換気口伝いに煙が流れ込んだとしか思えなかった。
運転をしながら、ふと芸能界に復帰したばかりの酒井法子のことを思い出した。
彼女が警察からの任意同行を拒否して失踪した際、「夫が覚せい剤の所持で現行犯逮捕されたことに衝撃を受けたのだろう」と思った。
のりピーが自殺でもしたら大変だと、本気で心配した。
覚せい剤反応が体内から抜ける時間稼ぎのために逃亡をしているなど、思いもよらなかったのだ。
後で事実を知り、あらためて自分という人間の凡人さ加減を思い知らされた。
この笹子トンネルだって本質的には変わりない。
高速道路のトンネルの天井が落下するなんて思いもよらなかったし、落ちないものだと信じていた。
現にトンネルの天井は落下した。そして、それでも笹子トンネルを通っている自分がいる。
信じる根拠の薄弱さを思い知らされながらも、信じなければトンネル一本走ることができない。
それは僕に限らない。
人間とは信じる根拠がなくてもそれを信じ、それでこそ「道」を進むことのできる生き物だからだ。
一瞬、福島第一原発事故のことが脳裏に浮かんだ。
あまり運転中に考え事をするわけにはいかないので、頭の中からそれを消した。消すには重かったけど。
途中、東名の事故渋滞を回避して下道を走りつつ、余裕で美輪さんのステージに間に合った。
僕は7年にわたってこの瞬間を願い、いつかそれが実現することを信じ続けた。
信じた結果は、言葉に言い表せないものだった。
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