リスナーズ・セッション in 日ノ出町 シャノアール Vol.1
リスナーズ・セッションのこと
私たちはついつい「歌う」とか「演奏」するという部分に目が行きがちですが、 音楽の形が無限であるように「音楽表現する」という形も無限だと思っています。中でも 「自分の好きな曲を人に伝える」という行為は、最も身近で簡単な「表現」だと思っています。
「この曲おすすめだよ」「私はこの曲が好きです」「この曲には思い出があります」 e.t.c.
それをお互いに表現しあってみたら面白いんじゃないか?それがこのイベントの原点でした。
読書の世界には「ビブリオ・バトル」というのがありますが、バトるつもりは最初からありませんでした。自分の好きな曲を紹介しあう事で、新しい音を知り、参加者同士がつながったら面白いだろうなと考えていたのです。
そして….ここが重要かもしれませんが、できればライブハウスのような場所で大音響で楽しめればいいだろうと思っていたのです。
僕はライブハウスへ行く事が多いのですが、バンド入れ替えの時に流れるBGM、たまに好きな曲が流れていたりして、「これをソトオト(ライブ音響)で聴けたら楽しいだろう」という事はいつも思っていました。
現在は豪華なサラウンドシステムで音楽を楽しむ時代ではなくなり、イヤホンでサブスク配信を楽しむのが当たり前の時代になってしまいました。そういう意味でもライブハウスでこういイベントができたら面白いだろうなと思っていたのです。
もしかしたら似たようなイベントは今までもあったのかもしれません。なかったのかもしれません。いずれにせよ、こういうイベントを何て呼んだらいいのか?そのネーミングには悩みました。
「ミューズ・バトル」→「ミューズ・ミーティング」→「ミューズ・セッション」→「リスニング・セッション」と散々頭を捻らせた挙句「リスナーズ・セッション」という言葉を思いついたのです。
2020.3.21 日ノ出町シャノアール
コロナ騒ぎでイベントの自粛や中止が相次ぐ中で、ライブハウスを応援しようと思っていました。
「換気が悪い」「クラスターを形成しやすい」なんて一律網羅的に言われていますが、オールスタンディングのすし詰めで「肩が触れ合うほどの混雑」レベルのライブなんて、メジャーアーチストでも出演しない限り、お目にかかった事がありません。
日本の90%ぐらいのライブハウスは出演者とお客さんがぼちぼち。よっぽど通勤電車の方が危険性が高いと思っています。ちょうどイベントの前日、僕は戸塚LOPOさんの「LOPOマイク(オープンマイク)」イベントで2曲ほど歌わせて頂いたのですが、そりゃあもう平和なものでした。
先週14日ぐらいだったかな。ちょうどタイミングよく「日ノ出町シャノアール」….いつも御世話になっているライブバーなんですが…..3月21日のイベントキャンセルが出たと店長の大西さんから聞いたのです。そこで、ここぞとばかりに「リスナーズ・セッション」を行う事に決めたのです。
ライブハウスでは出演者をブッキングして、宣伝し、集客します。
出演者のライブを最善の音響でお客さんに聞かせます。
そういうのが当たり前だから、「メディアを使用して音楽を聞くだけ」のイベントを思い巡らす事もないし、抵抗もあると思います。しかしながら大西店長はこれを面白がって協力して下さいました。
Pink Floyd「The Dark Side Of The Moon
初めての試みですから「好きな曲を聞きあおう」というだけでは何か不安がありました。
だったら歴史的名盤の試聴会を抱き合わせでやろうと考えたのです。
それでは何を聞くか?
無難と思ったのはThe Beatlesの「Sgt,Pepper’s」あたりですが、これでは当たり前すぎて面白くない。個人的にはオーケストラとロックを融合させたThe Moody Bluesの「The Days Of Future Passed」なんて面白いと思ったのですが、ちょっとマニアックすぎる。
そこで白羽の矢を立てたのがPink Floydの1973年の名盤「The Dark Side Of The Moon(狂気)」でした。全世界でマイケル・ジャクソン「スリラー」に次いで売れたアルバム(5000万枚以上)。ステレオフォニックサウンドの醍醐味を楽しめるのと、音響系のサウンドですから、記念すべき一回目のセッションには向いていると思ったのです。
それと、Pink Floydだったら集客は少ないでしょうから、感染の予防にもなると思ったのです。
本番
正直言って準備期間も短いし、お客さんが来る自身もなかったのです。
内心誰も来なかったら一人で楽しむかぁ~ぐらいに思っていました。
そうしたらtwitter経由でお客さんが来てくれた。これは嬉しかったです。
前半のPink Floyd「The Dark Side Of The Moon(狂気)」全曲試聴は圧巻でした。空間を埋め尽くす音の数々….サウンドとSEとが右へ左へと行き交う…贅沢な陶酔の時間でした。
Twitter経由の参加者ばかりだったのですが、ある女性(このアルバム初体験)の感想は「ムダな音や邪魔な音が一切なくて心地よかった」。
「Money」が4分の7拍子である事に対して理論的説明をして下さる方もいれば、ポリリズムの話にもなったりして、思わぬ勉強会にも。
そして後半は「リスナーズ・セッション」。
驚いたのは自分の想像を遥かに上回るような音源を皆さん持って来られたこと。ジャズ、民族音楽、吹奏楽、映画音楽と多岐にわたっており、しかもフツーじゃないものばかり(笑)
1曲聞く事にお互いに感想やトークを交わしてゆくのですが、これが新鮮で面白い。
若い参加者が語った感想がとても印象的でした。
「ジャズではアドリブを交互にプレイしているから"争いのない音楽"だ」
僕なんかはジャズの演奏ってプレイヤー同士のバトルぐらいに考えているものだから、この平和な発想が目から鱗でした。角度が変われば音楽の聴き方も変わる。これが一番の収穫だったかもしれません。
セットリスト
- Pink Floyd – Album"The Dark Side Of The Moon" [1973]
全10曲 - Benny Golson – Domingo [1991]
- Zakir Hussain, Shivkumar Sharma – Concert in Tokyo 1988 tabla explanation
インドのタブラ奏者ザギール・フセインらによるタブラのレクチャーとデモストレーション - The Moody Blues – The Night In White Satin [1967]
- カルマン(岡林立哉,小松崎健,トシバウロン) – ウーレンボル [2014]
- キャッスルウインドアンサンブル&大阪産業大学文化会吹奏楽部 – 吹奏楽のための「風之舞」
- 平沢進 – スケルトン・コースト公園 [1989]
- Van Morrison – Celtic Swing [1983]
- 佐藤勝 [作曲]・鐵 彌恵子[ソプラノ] – 黒澤明「天国と地獄」サウンドトラックより
東宝ロゴ - 佐藤勝 [作曲]・鐵 彌恵子 [ソプラノ] – 黒澤明「天国と地獄」サウンドトラックより
タイトルバック
最初は演奏前に曲名紹介をして、あとはトークや解説という流れだったのですが、場合によっては聞いた後で曲名紹介などもあって、そういう流れも自由でした。
あとがき
自分で考えたイベントでしたが、思っていた以上に面白いイベントとなりました。
いきなりカラを破った感じでした。あるいはPink Floyd効果だったのかもしれません。モノノ見事に「音響系」のサウンドが並んだような気もします。
「リスナーズ・セッション」。
僕自身はこのネーミングを独り占めするつもりもないし、誰かがこの名前でどこかでイベントをやってくれたら、それがライブハウスを応援するような趣旨であれば、人と人の新たな結びつきになってくれたら、こんな嬉しいことはありません。
ディスカッション
コメント一覧
何時も聴いてるスケルトン・コースト公園、イヤホンや家で聴いてもいい曲です。しかし、どうしても家で聴くサイズの音量だと、作曲者の描いた民謡とテクノの融合を表現し切るのは難しいんだなぁと再認識しました。一曲目は皆さん、リズムの話で盛り上がっていたので、急遽、リズムといえばインドのリズムマスターであるザキール・フセインだと思い変更しましたが、皆さん演奏に思わず笑みが溢れていて、選んでよかったです。大きな音で聴くのは最高ですね。
>kenmo2
コメントありがとうございます。お疲れ様でした。
とにかく面白かったのは皆さんの緩急自在の音源の出し方でした(笑)
家でもイヤホンでも楽しめない音の洪水、とてもとてもレアな時間になりましたね。
ザキール・フセインは知らなかったけど、凄い現代的センスの持ち主で、これが今のインド音楽なんだなぁと思った次第です。
珍しい音、ありがとうございました。