京都のCDショップと川瀬智子

上大岡的音楽生活

生徒さんと音楽の話をしていて、ふとこんなことを思い出した。

僕は1990年代に京都のCDショップで店長をしていたことがある。

店内でかけるBGMって、その日によってまちまちだけど、
その日はデビューして間もないあるグループの曲を熱心に流していた。

「こういうところが良かった」とか、
そういったことは忘れたけど、
大量生産、大量消費される新人の中で、
とても引っかかるものがあったのだろう。
そのサンプル盤を夕方の時間にずっと流していた。
その音楽は店外のスピーカーを通して、
夕焼け空の京都の街に流れていった。

京都外大に通っているアルバイトの女の子が
ボーカル(女性)の歌声を聞いて
「英語の発音が上手いですね~」
と言ったような記憶があるけど、
あるいは記憶違いかもしれない。

とにかくそうしていたら、
突然店内に40代~50代ぐらいの女性が駆け込むように入ってきて、
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
とカウンターにいた僕たちにお辞儀をしはじめたのだ。

「えっ?」

そうしたら彼女は
「娘のCDをかけていただいてありがとうございます!」
と言ったのだ。

彼女はこのグループの女性ボーカリストのお母さんだった。

お母さんはよほど嬉しかったようで、ご自分のことや、
デビューして間もない娘さんのことを、いろいろ話してくれた。

彼女は近くの冠婚葬祭関係の事務所で働いていた。
ちょうど帰宅途中にこの店から娘の歌声が聞こえてきたので、
びっくりしたらしい。

「娘も外にいるのですが、恥ずかしがって来ないんですよ」
と言ったのか、
「娘がここにいても、恥ずかしがって入ってこないでしょうね」
と言ったのかが判然としない。
いささか聞き取りにくい早口で興奮気味に話す彼女の言葉の中に、
たしかにそういった意味のことを聞いている。

そうした話の中で僕が印象に残った言葉がある。

「私は今まで大変苦労してきました。
たけど、この娘がいつか幸せを呼んでくれる娘だと信じて、
一生懸命育ててきたんです。」

そして彼女は店内にあったこのグループのCDを全部
(といってもまだシングル2枚しかリリースされていなかった)
を買ってお辞儀しながら去っていった。

それからホンの数ヶ月で、彼女の娘さんは本当に幸せを呼んでしまった。

3枚目のシングルがドラマの主題歌に抜擢され、大ヒット。

今では誰もが彼女を知っている。

その娘さんの名は川瀬智子(The briliant greenTommy february6)という。

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