「青い影」のステレオ・バージョン
1990年代の京都には個性的なCDショップがいくつもあった。
こちとらCDの店長にもかかわらず、よく漁りに行ったものだ。
お店の名前も忘れてしまったけど、そんなお店のひとつが市役所の裏側、二条通にあった。
このお店の面白いところは、洋服屋さんの店先を間借りしていたこと。
ショー・ウインドウにはオーダーメイドの立派なスーツか飾ってあったっけな。
ほら、京都の商家って「鰻の寝床」と言われるぐらいで、間口は狭いのに奥行があるでしょう。
入口の右手に奥まで長く間仕切りがあって、その間仕切りの向こう側、壁との隙間1mぐらいの細いスペースがずっと奥までCDショップだった。
日本で最も細いCDショップだったかもしれない。
このお店、もともと三条通りあたりで営業していたお店だった。
ある時行ったら「移転しました」と貼り紙がしてあったので、地図を頼りに探しに行ったらこんな場所に店を構えていた、というわけだ。
この店で見つけたのが、
「Procol Harum 30th Anniversary Anthology」というCD3枚組のBOXセットだった。
BOXセットと言っても、よくあるベストアルバム的な構成ではなくて、
プロコル・ハルムの初期の4枚のアルバム
1st:Procol Harum (1967)
2nd:Shine On Brightly(1968)
3rd:A Salty Dog(1969)
4th:Home(1970)
からシングル曲を抜いたものをCD2枚に全曲収録し、
3枚目のCDにシングルトラックとレアトラックを加えたものを収録するという、実にわけのわかんない構成だった。
すでにこの時、1stアルバムと3rdアルバム、そしてベストアルバムを持っていた僕にとっては、
それほど魅力的なものには感じなかったけど、
気になったのは「青い影(A Whiter Shade Of Pale)」の未発表テイクが2曲収録されているという点だった。
(「青い影(A Whiter Shade of Pale)」プロコル・ハルム)
高校生の頃、流行りの音楽に目もむけず、ひたすら1960年代の音楽を追い求めた「ひねくれ者」&「なんちゃって鍵盤弾き」にとって、これは神の曲だったからだ。
当時、学校の書道の先生から「自分の雅号(ペンネーム)を考えなさい」と言われて「蒼影(そうえい)」と気取ってみせたのも、この曲の影響だった。
「青い影」は1960年代、ロックという音楽が急激にそのフィールドを広げてゆく中で、突然変異のように空から降ってきた作品だった。
そこにはキーボード担当のマシュー・フィッシャーがハモンドオルガン(M-102)とレスリースピーカーとを組み合わせて奏でる甘美なメロディ(バッハ「G線上のアリア」にインスパイアされた)があった。その旋律には、反抗や反逆の象徴だった「ロック」という音楽が、誕生からわずか10数年で自分自身でも説明できないほどに進化を遂げてしまったことの証左だった。
なんて、話が横道にそれてしまったけど、僕はその商品を丹念に眺めながら買おうかどうか迷っていt。
そこには「Previously unreleased track,outtake or Alternative Version(未発表トラック、アウトテイク、別バージョン)」と書いてあるのみで、どんなものなのかは書いていない。
「こりゃあバクチだな」と思いつつ、レジに向かった。
帰宅後、開封して3枚目のCDのトラックリストを見て驚いた。
11.A Whiter Shade of Pale (Previously unreleased stereo version)
思わず「ステレオ....何これ!」と叫んだ。
永年にわたって「青い影」は左右のスピーカーから同じ音が流れるモノラル音源しか現存していないと思っていたからだ。
しかも演奏時間は6分4秒もある。
1960年代当時、レコードというものはラジオでオンエアされることで売れる時代だった。だからレコード会社はラジオ局のDJが好んでオンエアしやすいよう、シングル曲は3分台に収めるというのがセオリーだった(むろん音質の問題もある)。「青い影」はそれよりは若干眺めの4分5秒の曲だったけど、終盤は無理やりフェイドアウトさせて楽曲を終わらせている。
このようなフェイドアウトする曲をバンドでカバーする際には、こちらでエンディングを考えなければならなかった。この6分版バージョンには、その「解答」がある予感がした。
今のYoutubeには何でもそろっているなあ。探したら僕が買ったCDと同じバージョンがあった。
(「青い影」ステレオ&トゥルー・エンディング・バージョン)
見分けがつきにくいだろうけど、このテイクはシングル化されたテイクよりも前に録音された別テイクで、現存する4トラックテープからステレオ化したものらしい。
ロックも考古学の領域に入ったんだな、と思ったのはこの時が初めてだったかもしれない。
このステレオ・バージョンがその後、別の形でリリースされたという話は知らない。このBOXセットは廃盤になってしまったようで、現在はプレミアがついている。
さて、「過去70年のレコード史上、最もオンエアされた曲」と言われた「青い影」に影響を受けたのがユーミン。
彼女はこの曲に影響を受けて曲を書き始め、そんな中から「ひこうき雲」(先日のライブでmarthaさんもカバーしていた)という名曲を生み出した。
昨年には自分のベストアルバムでプロコル・ハルムと共演して「青い影」を歌い、一緒にライブツアーも行っている。
ディスカッション
コメント一覧
そうか、spiduction66 さんみたいな人でしたら、全部が、ぱっと見てわかるだろうな、と思いました。
5月3日夜10時からNHK総合で「音楽ジェネレーション」という番組が放送されます。その公開録画に行ってきたのですが、すごく良かったです。
世代の違う郷ひろみと平原綾香の歌うエルビスプレスリーもよかったですし、トークで「プレスリーは、あの時代なのに今のようにビブラートが浅くて速い。平原さんのもそうだけど」と郷ひろみが分析して実演をまじえて話すのも興味深かったです。
そして、お二人のバックに音楽史に残る有名なアルバムジャケットがディスプレイされていて、私には数枚しかわからなかったけど、spiduction66 さんなら全部がすぐにわかるでしょう。振り向いた牛、ジーンズのヒップ、道を横断する4人、レッドツェッペリンのは飛行船なのか海底から見上げた潜水艦なのか・・・
どうしても思い出せないイラストの女性のジャケット。ちょうど郷ひろみと平原綾香の間あたりにあった。誰の何というアルバムなのかなぁ。
せろりさん
その番組、録画します。プロの方によるプロの唱法の分析って、なかなか深いものがあります。
ジャケットですが、面白いゲームですね。
多分これらだと思います。
「振り向いた牛」Pink Floyd – Atom Heart Mother
「ジーンズのヒップ」Bruce Springsteen – Born In The U.S.A.
「道を横断する4人」The Beatles – Abby Road
「海底から見上げる潜水艦に見える」Led Zeppelin – Led Zeppelin I
ここまでは簡単ですが....
イラストの女性のジャケットはこれではないでしょうか?
Joni Mitchell – Clouds
https://www.google.co.jp/search?safe=off&q=Joni+Mitchell+Clouds&bav=on.2,or.r_cp.r_qf.&bvm=bv.45921128,d.dGI&biw=1664&bih=886&um=1&ie=UTF-8&hl=ja&tbm=isch&source=og&sa=N&tab=wi&authuser=0&ei=4GGCUfzGAcKhkAX3hICgAw
答は明日わかりますね。
気に留めてくださいまして、ありがとうございます。とても嬉しいです。
教えてもらったものを見てみましたが、違います。
ほんとに表現力なくて自分でももどかしいです。
ごめんなさい。全体の中の顔の位置や大きさは、ユーミンの天国のドア?イラストは半分から上の部分だけで、もっと線画っぽかったような。ああ、ダメです。記憶もあいまいで、自分で勝手に作ってしまってるかも。
「ジーンズのヒップ」は80年代にもあったんですね。70年代、Rolling Stones の Sticky Fingers の方です。
やっぱり言葉だけでは、受け取られ方は多様になってしまうんですね。 もどかしくもあり、興味深くもあります。
>せろりさん
あちゃあ、録画し損ないました。
社屋の移転でバタバタしていたもので。
Sticky Fingersならジーンズのヒップじゃなくてフロントでしょう。アンディ・ウォーホールのデザインで、リアルタイムのレコードジャケットでは本物のチャックがついていました。当時これがレコード屋さんに並んでいると、金属部分が前に並んでいる別のtレコードジャケットを傷つけてしまうんですよね。多分レコード屋さん泣かせだったと思いますよ。
女性のイラストの方はわかりませんね~
実にNHK的な無難な定番セレクションですよね。
そういう場合だったら女性といえばCarole KingのTapestryを並べるのが一番堅いと思いますがあれはフォトだしな~。