ボーイスカウトと宗教と銀行と

僕の記憶では、ボーイスカウト(カブ隊)への入隊を誘ったのはクラスメイトの山口君だった。小学校2年生の時の話だ。

普通だと家の最寄の団に入隊するものなのだけど、なぜか我々が入隊したのは東神奈川にある横浜57団、宗教団体の「孝道教団」が運営するスカウト隊だった。

なぜ宗教団体が運営する団に入隊したのかよくわからなかった。だけど近所の団もお寺さんが運営していたから、特に疑問も感じずにここに通っていた。

毎週日曜日にスカウトの制服でビシっと決め、山口君とともに国鉄京浜東北線で東神奈川へと通う。
この制服ってヤツがなかなかカッコよくて、これだけでもいい気分になったものだ。

毎週様々な活動を行った。
凧揚げ、運動会、サバイバルゲーム、鼓笛隊の練習、ロープの結び方の練習、飯盒炊さん、工作、街のゴミ拾い、.....時には泊りがけで舎営(合宿)にも行った。子供なりにアウトドアライフを楽しみ、集団生活を楽しんでいたと思う。

大きな宗教法人が運営していたせいか、たとえ日曜日が雨になっても活動する場所が確保されていた。
泊りがけの合宿のことをスカウト用語で「舎営」というけど、その舎営も葉山の教団施設だったり信者の家だったりと、「その日の傘」には困らなかった。
そのいっぽうで宗教行事への出席をさせられることもあり、それはかなり退屈なものだった。

(小学校3年生の僕。山梨県の都留市に舎営へ行った際に富岳風穴前で撮影。撮影日は昭和49年7月26日だからウォーターゲート事件で全米が震撼していたまっただ中、このような「ヘン顔」をしていたことになる。だけどそれはニクソン大統領のせいであって僕のせいではない)

今回この記事を書くにあたって、教団のHPを拝見した。
当時は教団の「初代統理様」である岡野正道師がご存命だった。僕はその方「講話」を聞いたわけだから、ある意味(信者の方々にとっては)貴重な経験をさせてもらったわけだけど、「統理様」のお話は小学生には難しすぎたのだろう。全く覚えていないのだからとんでもない話である。

宗教行事といえば、教団は毎年春に「花まつり」というのを行っていた。団員は鼓笛隊を組み、教団歌を演奏しながら六角橋や東白楽あたりを行進した。この鼓笛隊でみなと祭のパレードにも出演したこともある。ボーイスカウトというのは外部から見た話で、教団内では「孝道健児隊」だったわけだから、何でもあったわけだ。
両親も僕も信徒ではなかったので、まあ「ボーイスカウトというものはこういうものだ」程度に思っていたのだろう。

(昭和50年、鼓笛隊で縦笛を吹く管理人)

不思議なことに、こんな宗教的な活動もしていたにもかかわらず、「何か」に影響を受けるということは一度もなかった。
今でも正月と盆以外は宗教の「し」の字も出てこない典型的な日本人を通しているのだから、不思議なものだ。
まだ「宗教」と言うものを理解し、受容するだけの頭がなかったのだろう。子供であるということは、時には都合のよいようにできている。

(昭和51年。ネッカチーフを極限まで細く巻く方がオシャレだと気付いた頃)

結局、僕はカブ隊でやめてしまったけど、山口君はボーイ隊まで進級していったと記憶している。
だが、テント設営や飯盒炊さんの腕は、後になって思わぬところで役に立った。
中学校2年生の時...昭和54年だったと思うけど、友人のK君とS君と那須にキャンプに行った。その際、僕が2人にテントの設営と飯盒炊さんを教えたことがある。

それから30年後、同窓会でK君と再会した。
名刺交換をして驚いたのは、彼が僕の会社のメインバンクの支店長だった、ということだ。

ちょうど僕は業務拡張のために、会社は新たな資金を必要としていた。これ幸いとばかりに融資できないものかと、切り出してみた。

そうしたら彼はこう言った。
「中二の時の那須キャンプ、あれは君がいなけりゃあとても実現しなかった。テントの張り方、飯盒炊さんのやり方、おかげで楽しかったよ。君だったら融資しても多分大丈夫!」。
後日、本当にそれで融資が実現したのだから驚いた。「テントの張り方」や「飯盒炊さん」の腕で融資を受けることのできた数少ない企業であることは間違いない。

さて先日のこと。
Facebookで山口君と再会し、彼が教室に遊びに来てくれた。実に昭和55年以来32年ぶりの再会だった。

僕は長年の疑問を彼にぶつけてみた。
「山口のご両親って、教団の信徒だったの?君に誘われて57団に入ったけど、結構宗教の行事に引っ張り出されたよな」
そうしたら山口が驚いた顔をして言った。
「よく言うよ、俺は君に誘われてボーイスカウトに入ったんだぜ。君のご両親が信者だったんだと思ってたよ!」

結局どっちが誘ったのか記憶になく、どちらの親も教団の信徒ではなかった、ということだけが判明した。

じゃあ誰が57団に入隊させたのだろう.....この謎だけが永遠に続いてゆく。