スパイダースのゴーゴー向こう見ず作戦

先日「三木鶏郎と異才達」を書いたところ、これを読んでくださった生徒さんのKちゃん(ウチでは全員「ちゃん」づけです。だけど丁寧語使うとヘンだな。まあいいか)から、「”ポカンポカン”なら覚えているわよ。好きな歌だった」と言われた。Kちゃんがご存知なのは昭和41年にリリースされた梓みちよのバージョン。なおKちゃんは昭和20年代の「僕は特急の機関士で」も覚えてらっしゃった。おそらく子供時代にみんなで歌ったのだろう。

梓みちよ版はピーナッツ版に比べると豪華なハワイアン・アレンジになっており、トリローの作品の中でも名曲中の名曲。教室にあるので早速かけてみた。大変懐かしがられていた。

ちなみにKちゃんはGSではテンプターズ(ショーケンのいたグループ)が一番お気に入りだったという。僕はスパイダースが好きなので、その話をすると、
「ああ彼らの映画を見に行ったことがあるわよ。たしか屋根の上を歌いながら歩くシーンがあったわ」とおっしゃられた。

これは昭和42年に公開された「スパイダースのゴーゴー向こう見ず作戦」に違いない。松原智恵子演じるヒロインのために、メンバーが横浜から東京までひたすら一直線に歩くという映画だ。塀があれば塀を乗り越え、家があれば家の中を通過する。途中ライフル魔が篭城している事件現場では、真っ直ぐに発砲する犯人に向かってゆくし、カラーテレビの工場では生産ラインに巻き込まれて梱包されてしまう、というハチャメチャな映画だ。この映画のワンシーンで、井上順ちゃんが歌う「なんとなくなんとなく」にあわせて屋根の上をメンバーが進んでゆくという、シーンがある。このシーンのことをKちゃんは鮮烈に覚えてらっしゃったのだ。

人には誰にも「青春」という時代があって、その時代にフィットする音楽や映像の記憶がある。そういう曲の話をする瞬間は、誰もが少年や少女になる。

僕はそういう瞬間を見るのがとても好きだ。