斉藤哲夫、まつざき幸介、ヌッキー@リュウ at 稲村ガ崎Peter’s

ライブレポ

(ここ1週間ほどblogの挙動がおかしくなってしまい、メンテナンスしているウチに問題点が多発。必然的にblogもまる1日消えてしまいました。一時的にmixiに避難したりもしたのですが、試行錯誤のうえ何とかblog復活しました。んでもってmixiを再設定したら、アチラの日記は消えてしまうんですね。消えた日記にコメントを下さった皆様、失礼しました。6
年暮らした辺境の地で細々とやる所存です。それではゆきます)。

「上永谷のスタジオで練習があるので14時ごろおいで下さい」とまつざきさんから電話があったのは前日のことだった。
そんなわけで呑気な顔して斉藤哲夫さんの曲を聞きながら車でスタジオへ向かった。
てっきりまつざきさんとリュウちゃんが2人きりで練習しているのだと思っていたわけだ。

ところがスタジオのロビーで腰が抜けた。
そこには斉藤哲夫さんが座っていたのだ。

1970年代の音楽事情に詳しい人ならば、「斉藤哲夫」という名前は別な意味を持っている。脱臭剤を使って「日本臭さ」を抜き取ったかのような「洋楽っぽい」楽曲の数々。そしてハイトーンで歌われる極上のメロディー。メロディーメーカーとしての才能。あの時代に小田和正、財津和夫に劣らない独特の個性とセンスを持っていた方だ。
伝説のレコードレーベル"URC(注:五つの赤い風船、高田渡、早川義夫、はっぴいえんど、遠藤賢司、加川良、三上寛、友部正人、金延幸子などが活躍した)からシングル「悩み多き者よ(1970,2)」でデビュー、そして名盤「君は英雄なんかじゃない(1970,6)」をリリースしたのが斉藤さんのキャリアの始まりだった.....

.....と言いつつも、どうしても我々の世代だと「今のキミはピカピカに光って」を思い出してしまう。

あれは強烈だった....宮崎美子の可愛さがだ。そして誰もがレコードを買いに走った。そう、宮崎美子がジャケット写真に使われ、隅の方に「斉藤哲夫」とだけ書かれたレコードを。
その時の「斉藤哲夫」という文字は、僕にとってはあまりにも匿名性の高い「記号」だった。だからこそ、後追いで斉藤さんの1970年代の音楽に接した僕のような人間にとっては、「今のキミ」とは全く違う音楽が、あまりにも鮮烈だった。

あれから30年、まさか斉藤哲夫さん、まつざき幸介さん、ヌッキー@リュウちゃんというありえない組み合わせの3人を自分の車にお乗せするとは思わなかった。

車中で聞いた斉藤さんの話だけでも記事が書けてしまうのだけど、それは後日。車は1時間足らずで稲村ガ崎のペーターに着いた。
七里ガ浜に面した洒落たレストランだ。演歌、フォーク、ナガブチという異種の音楽を混合させるには、うってつけの場所だったと思う。

僕自身はまつざき幸介さんを狭義の「演歌歌手」だとは思っていない。シングルを聞けばわかる通り、むしろ「ニューミュージック」に近い。少なくとも「ド演歌」ではない。「ド演歌」から抜け出すというのが現在の演歌の潮流だとすればずっと先を走っていると思う。ただ説明する上では「演歌歌手」というのが一番説明しやすいことになる。この場合の「演歌歌手」というのは人に伝えるのにわかりやすい「記号」だということになる。実際のところ実験的な試みを行っている「演歌歌手」は多い。かつてRCサクセションとも組んだことのある坂本冬美さんは「また君に恋してる」という大ヒットを生み出したし、ちょっと前には冠二郎さんがディープパープルと演歌を融合させた。

そんなまつざきさんから「今度ギター弾き語りをバックに歌うライブを行いたいのですが、誰かギタリストの方ご存知ないですか?」と尋ねられた時、とても面白いと思った。「ギター演歌」というのは昔からあったけど、まつざきさんが考えているのはそれではないだろう。まつざきさんの楽曲ならばそのまま「フォーク」や「ニューミュージック」の世界になる。
そこでリュウちゃんを推薦した。年齢が一緒だしステージ経験も多い、普段の音楽の趣味が似ている、まつざきさんも学生の頃、ビートルズのカバーなどをするバノドでドラムを叩いていたことがある。何よりも社会人と音楽活動を並行させている(させていた)ということでも一緒だ。

それがまさか斉藤哲夫さんとのジョイントライブに発展するとは思わなかった.....

リハの段階から、リュウちゃんは緊張しているのがわかった。そもそも今回は「説明したらこの場をブチ壊すこと必至の芸名」も使用していない(笑)。

いっぽう斉藤さん。まさか生のステージをこんな近くで見れるとは思わなかった。
学生運動が終焉を迎えつつあった1970年から「悩み多き者よ」「斧を持て石を打つが如く」「君は英雄なんかじゃない」「とんでもない世の中だ」、そして吉田拓郎もカバーした「されど私の人生」というように時代を達観したかのような言葉を発してきた斉藤さんは当時「若き哲学者」と呼ばれていた。

CBS SONYに移籍してからの斉藤さんは、むしろ言葉以上にサウンド作りにこだわった。「ビートルズに影響を受けた」という斉藤さんの音....「今日から明日へ」「バイバイグッドサラバイ」「ねぇ君」「グッドタイムミュージック

これらの音楽を聞いていると、中期のビートルズのバンドサウンドにこだわったきらびやかな音作りが感じられる。同じ影響を受けた財津和夫の「魔法の黄色い靴」に匹敵するような名曲の数々、それが宝箱をひっくりかえしたようにある。その後ポニキャン時代に思いもかけず「今のキミ(糸井重里作詞、鈴木慶一作曲)」がヒットしてしまうわけだけど、URCやSONY時代の斉藤さんの音も、もっと評価されていいんじゃないかと思う。逆に後追いで斉藤さんの音楽を聞いてきたからこそ、評価できるんだと思う。
2006年に小田和正さんが「クリスマスの約束」で斉藤さんを引っ張り出したのもそれが理由だったのだろう。小田さんは斉藤さんのソングライティング能力を高く評価していたという。当時TVを見ていた僕は「よくぞ誘ってくれた」と喜んだものだ。

リハを見ただけで「もの凄いことになりそうだ」ということはよくわかった。
こっちも優雅にディナーを食べている心境ではなくなってしまった。
リハーサル終了後、リュウちゃんとコンビニでおにぎりを買い、七里ガ浜の砂浜で一息。
「緊張しているでしょう」
「いやぁ~緊張しますね、これは」
置かれている状況の凄さに面食らっている二人だった。
そんな中でリュウちゃんが言っていたのは「まつざきさんはこちらに合わせてきてくれる」という言葉だった。
自分のペースで歌いつづけないで、ギタープレイに合わせてくるというのだ。

本番は19時前から始まった。

まずは斉藤さんのステージ。

今年でデビュー40周年のツアー中の斉藤さん。
1,「斜陽」(1980)
2,「セレナーデ」(1979)
3,「まさこ」(1975)
4,「長屋の路地に」(高田渡カバー)
5.「イエージの詩」(吉田拓郎カバー)
6.「くよくよするなよ(Don’t Think Twice It’s All Right)」(Bob Dylanの日本語カバー)
7.「朝の雨(Early Morning Rain)」(Ian & Sylviaの日本語カバー)
8.「グットタイム・ミュージック」(1974)

途中にツーフィンガー、スリーフィンガーの話や、「クリスマスの約束」に出演した時のエピソードなどをはさみながらの40分のステージだった。もっとオリジナルを聞きたかったけど個人的には「まさこ」「グットタイム・ミュージック」を生で見れたのが嬉しかった。斉藤さんの初期ディラン風のフィンガリングとハイトーンの声が良かった。決して斉藤さんは「今のキミ」に「記号」としてクレジットされているだけの斉藤さんじゃない。聞けば聞くほどそう思う。
また斉藤さんのライブに行ってみたいと思った。

お次はまつざきさん。ギターはリュウちゃん。

1,「Sake」(2006年、松崎英樹名義のデビュー曲)
2,「横浜ロンリー」(2008。リュウちゃんコーラス)
3,「初恋」(ふきのとうのカバー)
4,「君すむ街」(2008。リュウちゃんコーラス)
5,「鎌倉残照」(2006/2008。2番はリュウちゃんがボーカル)
6,「夜泣き鳥」(2009。リュウちゃんコーラス)
7,「神田川」(かぐや姫のカバー)
8.「6月のジルバ」(2009。リュウちゃんコーラス)

まつざきさん、普段はオケで歌うところしか見たことがなかっただけど、ギター弾き語りとの組み合わせがとても新鮮だった。まつざきさんにとっても新境地だったと思うけど、まつざきさんの歌の良さや楽曲の味がとてもよく出ていたと思う。ひとつのわかりやすい「記号」として僕はまつざきさんを「演歌歌手」と呼んでいるけど、過去には「むしろニューミュージック歌謡だ」と言っていたこともある。そういう枠におさまらない方なんだということを言いたかったからだ。今日はそういう想いが具現化していた。素晴らしいステージだった。ファンの方々も同じ意見だったと思う。

そしてリュウちゃんのソロが続く。

1,「祈り」(長渕剛)
リュウちゃん、ソロボーカルがあったり、コーラスがあったりと大活躍だった。とりわけ「6月のジルバ」のギターアレンジは歌いやすいような工夫だらけで本当に大変だったと思う。
短い準備期間、プロ活動されている御大と共演するというプレッシャー、そして周囲がほとんどまつざきさんと斉藤さんのファンという物凄いプレッシャー、そんな中でこれだけのいいプレイと歌唱を見せたこと、そう誰にも真似できるものじゃない。頭が下がった。20年以上のステージ経験があったからこそ、このステージに到ったのだと思う。

そして最後には何と斉藤哲夫さん、まつざきさん、リュウちゃんのステージだ。

1.「オー・スザンナ」(フォスターの名曲を斉藤さんが"Get Back"風にアレンジ)
2,「今のキミはピカピカに光って」(1980 ご存知斉藤さんの代表曲)
3,「空に星があるように」(荒木一郎カバー、斉藤さんが「まつざきさんにどうしても歌わせたい」ということで選曲)
4,「なごり雪」(イルカのカバー)
そしてアンコール。
5.「オー・スザンナ」

いやぁ、濃いライブだった。そして素晴らしいライブだった。
「"今のキミ"の斉藤哲夫」という記号では計れない斉藤さん、「演歌」の記号では計れないまつざきさんの組み合わせはスリリングだった。
また、斉藤さん、まつざきさん、リュウちゃんの3人がお互いにお互いを立てあってプレイしあうミュージシャンシップは気持ちがよかった。

さて、今回のライブだけど、お客さんの誰よりも楽しんでいたのは、カメラ撮影をしていた僕だと自信をもって言える。

なぜなら、この3人の音楽すべて接してきたのは、あの会場では間違いなく僕だけだからだ。

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