銀座の国のアリス ~入澤楓華 in “Alice”~

ライブレポ

(ようやく一段落していたので溜まっていたネタを一気にゆきます。まずは1月18日のことから)

かなりブッ飛んだ物語といえば、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を思い浮かぶ。主人公のアリスが不思議の国で体験する非日常的でイカれた世界を描いた物語だ。僕が持っているのは和田誠イラストの角川文庫版。一説によれば「アリス」は世界で聖書の次に読まれている本だという。
ウィキペディアで調べてみたら、この物語は過去に12回も映画化されているのだという。そんな中でも有名な作品といえば……ティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド(2010)」はとりあえず置いておくとして………..1951年にディズニーが製作したアニメーション映画「ふしぎの国のアリス」だと思う。公開当時はヒットしなかったものの、1960年代後半になって、そのあまりにもシュールでぶっ飛んだ内容に当時のヒッピーたちから絶大な支持を受けた作品だと聞いている。ヒッピーたちはこの映画をサイケデリックな作品……つまりドラッグの幻覚状態に近い内容の作品ということで、再評価をしたんだそうだ。

もっとも、この「ヒッピーたちから支持を得た」という文言は1989年の"ぴあ"に書いてあったもの。その信憑性はわからない。ただ1967年にビートルズが製作したTV映画「マジカル・ミステリー・ツアー」は「不思議の国のアリス」の影響が多大に感じられる。そもそもJohn Lennonが書いた名曲"I’m The Walrus"はアリスに登場するセイウチをモチーフにしている。さらにJefferson Airplaneのヒット曲"White Rabbit"とは、アリスに登場する白ウサギに他ならない。

I’m The Walrus – The Beatles(1967)

White Rabbit – Jefferson Airplane (1967)

1989年の今日みたいな1月の寒い日、僕は当時の彼女とともにこの映画を観にいった。東京銀座の三原橋にある映画館だった。そしてあまりのブッ飛び加減とサイケデリアな世界にポカンとしながら映画館を出たものだ。
この日は忘れもしない1989年の1月6日だった。翌日昭和天皇が崩御し、「ふしぎの国のアリス」は昭和の最後に観た映画となった。

あれから22年後、同じ銀座で「アリス」を観るとは思わなかった。

有名な演出家の郡司行雄さんプロデュースの演劇「Alice」がそれだ。生徒の入澤楓華ちゃんが「白ウサギ(White Rabbit)」役で出演するのだ。アリスの白ウサギといえば、いわば「狂言廻し」の重要な役どころ。不条理に展開されてゆく数々の場面をブリッジのようにつないでゆくのが白ウサギだ。教室でもいつも溌剌としている楓華ちゃんがどんな演技をするのか?アリスの不条理な世界を郡司さんが「演劇」というフィールドでどんな演出をするのか?これはゆくしかない。

場所は銀座のみゆき館劇場。平日の日中だけど劇場は満員。まずは主演アリス3人(平田梢子さん、野口遥さん、菅野吏紗さん)と、「いかれ帽子屋」の滝口ミラ(アイドル・お笑い芸人ミラマリアのボケ担当)さんの舞台挨拶から。
なんでアリスが3人もいるかというと、大人時代のアリス、子供時代のアリス、ドーピングで小さくなったアリスの3人、というわけ。

ストーリーを書くとネタバレになってしまうので書かないけど、郡司さんの「Alice」は、英語特有の言葉遊びは省略して「アリス」が持つ宝箱をひっくりかえしたようなドタバタした不条理の世界を引き出していた。それでありながらストーリの前後のあるエピソードを入れることでひとつの完結した物語性をきちんと作り出していた。またキャストの「地のキャラ」みたいなものを尊重しながら、伸び伸びと演技させているように感じた。個々の演技のレベルが極めて高くて、とてもいいものを見せてもらった。そんな中で楓華ちゃんは溌剌とした演技で舞台を所狭しと駆けずり回っていた。ダンスシーンもあった。楓華ちゃんは個性派とでも言うべき演技力の持ち主だ。落ち着きがなくて、どこか生意気で、どこかすっとぼけている白ウサギという役どころを楽しそうに演じていた。演劇終了後に楓華ちゃんに「地で演技していたでしょう?」と尋ねると、笑顔で「うん」と言った。大人でも難解な....逆に子供だからこそ理解できるというのが「アリス」の世界だと思う。それを楓華ちゃんはとてもよく理解しながら演技していた。

(銀座猫。寝ているスペースだけで地価何百万円の世界)
演劇終了後、劇場から数ブロック離れた某ショールームへ。音楽仲間のとーるさんがここに勤務しているので「今日寄ります」と事前にお伝えしていたのだ。とーるさんにショールームを案内して頂く。そんな中でお互いに「鳥ぎんの釜飯を食べたいね~」という話になる。鳥ぎんの鳥釜飯は子供の頃からこの世の中で最も好きな食べ物のひとつ。しかもここんとこご無沙汰である。これは食べるしかない。

一旦御茶ノ水へ行き、教室の機材(ミキサー、58マイク、マイクスタンド、ケーブル、カホン)を物色した後、再び銀座でとーるさんと落ち合って「鳥ぎん」へ
20時30分まで一食も食べずに我慢した腹になだれ込む鳥釜飯は至福の瞬間だった。

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