妙心寺展

ぶうらぶら

珍しく朝一番に起きてテレビをつけたら、仮面ライダーをやっていた。
いまどきの仮面ライダーはこんな日曜の朝早くからやっているとは知らなかった。「ディケイド」というやつで、どうも今日がその第一話の放送らしい。「世界はこれでいいのか?」と主人公が心配していたが、その前に主人公の演技力が心配になった。途中まで見ていたら、バトルシーンで今日行く予定の「東京国立博物館(上野)」が登場したのには驚いた。
東京国立博物館
何も博物館の前庭で戦わなくてもいいのにと思っていたら、怪物の手によって博物館付属施設の「東洋館」だけが時空の彼方に消え去ってしまった。
はてさて困った。あの建物にはエジプトのミイラがあるんだよね。せっかく子供に見せてやろうと思っていたのに....というトコロで家族がゾロゾロ起きてきた。
さっさと準備をすませ、我が家にしては珍しく早朝から車で飛び出した。
そうでなきゃこなせないスケジュールだったからだ。

まずは博物館の「平成館」で開催されている「妙心寺展」へとゆく。
妙心寺展
一番楽しみにしていた国宝の「瓢鮎図(ひょうねんず)」が2月10日からの公開ということで、「おいおい」だったのだけど、そのかわりに豪華絢爛な狩野山楽の「龍虎図屏風(りゅうこずびょうぶ)」を見れた。
龍虎図屏風
龍虎図屏風
屏風の右隻では雲間から龍がぬっと顔を出し、左隻では虎と豹(当時は雌の虎だと思われていたらしい)がそれに対して吠えているというダイナミックな作品。
娘に「当時は日本に虎なんていたのかな?よく描けたよね」と言うと、
「猫を見て描いたんじゃないかな?」と娘。
「なるほど、これは"ガオー"じゃなくて"はーっ"って言っているところか」と僕。
考えてみれば、こんなトンチンカンな会話はない。
虎ならばまだしも、龍に至っては当時も今も空想上にしか存在しないはずだ。

でもそれ以上に素敵だったのが、長谷川等伯の水墨画「枯木猿猴図(かれきえんこうず)」
枯木猿猴図枯木猿猴図
あっ、こりゃ凄いや。マンガチックでウッキーなお猿さんがユニークで可愛らしいが、墨の濃淡だけでお猿さんの毛並みやら枝ぶりやら描ききっている筆力、これに感心しながらずっと見入っていた。

京都の花園にある妙心寺の寺宝をずらりと並べたこのイベント、国宝、重要文化財レベルの美術品が圧倒的なボリュームで見れる点で凄い。京都時代は妙心寺から1kmぐらいのところに住んでいたわけだけど、だからと言ってこれだけのお宝が見れたわけでもない。

それにしても「瓢鮎図(ひょうねんず)」が見れなかったのは残念だった。
瓢鮎図
室町幕府将軍足利義持がある日、問いかけた。
「中が空洞で表がつるつるしたヒョウタンで、ウロコがなくてネバネバしているナマズをおさえることができるだろうか?」
それに対して都のそうそうたる禅宗の高僧たち31人がヘキサゴン顔負けの珍答、名答を寄せ、如拙がナイスな水墨画を描いた、そういう作品だ。

所有は妙心寺塔頭の退蔵院だけど、現在は京都国立博物館が委託されて現物を保存管理している(退蔵院には模写がある)。3月の終わりに所用で京都に帰省するため、その際に京都国立博物館で見れるかな、と思っていたら、何とその時期にアチラで「妙心寺展」が開催されているのだという。
こりゃあ何ともややこしいことになってしまった。

さて、お次は本館へ。とにかく建物そのものが凄い。
東京国立博物館
国威発揚のためふんだんに「和」を取り入れたナショナリズム、天下の大日本帝国でなきゃ作れないようなシロモノだ。
窓がほとんどないというのも、威圧的だ。
東京国立博物館
このぶっとい手すりひとつとったって、無駄に豪華。
1m分の材料費で当時の家が何軒も建ちそうだ。
東京国立博物館2F手すり
無駄に広大な空間をとった正面大階段も凄い。おかげで陳列スペースが不足したために、最近になって「平成館」を新たに建築する羽目になった、ともいえる。
東京国立博物館
この建物、竣工したのは昭和13年なんだそうだ。昭和13年といえばもう日中戦争が始まっている。じょじょに「贅沢」という言葉が禁句になりつつある時期だ。これ以降の大日本帝国にこんな立派な建物を建造する台所事情があったとは思えないから、これは大日本帝国最後の逸品といえるんじゃないか?そんなことを思った。

ちなみにお隣に明治時代からある「表慶館(関東大震災で元の本館が壊れた後は、こちらが本館として使われていた)」はこんな優美さを持っているのだが、この両者の建物のアンバランスさがまた凄い。
表慶館
龍虎図屏風と枯木猿猴図が一緒に並んでいる、それ以上のものがあるなと、そんなことを思った。

えっ、東洋館?
怪物の手で消されずに無事ありました。
中のミイラも無事でした。
こんだけ見ておきながら、もう一軒博物館へ行ったのですが、それはまた今度。

追記:花園大学教授の芳澤勝弘さんの「瓢鮎図・再考」は秀逸な解説です。

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