ユキスズキ「ひとりよがり」

ライブレポ

「他人と比較して自分について考える」。これは諸刃の剣みたいな所がある。

他人をみて我が身を正すとか、他人から刺激や影響を受けるとかならまだいい。
「あの人に比べる自分は….」というように、考えなくてもいい劣等感を感じやすい人の場合、そこには深い谷底が生まれてしまう。

「あの人がやらないようなことを自分はやってみよう」という考えも、実は危ない危ない。
結局その人の行動は他人を基準として生まれるものだからだ。

表現者も一緒だ。

他人と自分の才能を比較して、自分の事をマイナスに考える人や、そのアンチテーゼとして対角線上で表現する人は破滅しやすい。
いや自分の表現を枯渇させてしまう。なぜなら、そこには自分はいるようでいないからだ。

私の経験から言うと、開き直ってでも「我が道を行く」人の方が才能を開花させる事が多い。

その表現は、時には万人受けするものかもしれないし、時には「ひとりよがり」なものなのかもしれないけど、そもそも表現とは「ひとりよがり」なものだ。

そこに解脱できた人こそ、どんどん成長してゆくものだ。そして、そういう人は言い訳はしない。

ユキスズキもそんな「解脱者」の一人かもしれない。
まあ、そう言うと「いや、煩悩だらけっすよ」と苦笑しながら答えるかもしれないけど。

僕が彼女と出会ったのは、まだ彼女が17才だったか18才だったか、そんな頃だった。
天性のボーカル、そして爆発しそうな「何か」を抱えてうろうろしているテロリストみたいな子だった。

何を爆発させたらいいのか、何が爆発するのか多分彼女自身もわかっていなかったのだと思う。

それが19才ぐらいから曲を書き始めた。最初は絢香みたいな作品を書いていたように記憶している。そして小さなカフェとかで歌い始めていた。

ところが20ウン才を過ぎた頃に、ピタッと音楽活動を止めてしまった。

「もったいないなぁ」と言ったら、「いやぁ、色々と考える所がありまして」みたいな事を言ってた。
この時、彼女は「何を爆発させたらいいのか、何が爆発するのか」を悩んでいたのだろう。
沈黙の時間は1年以上あったんじゃないかな。

きっとそこに気づいたんだろう(少なくとも音楽表現に関して)。
「音楽活動再開しますんで」みたいなアナウンスがあった後、彼女は鮮やかなぐらい成長していった。

オリジナルの作品は、本当の意味で「オリジナルな」作品ばかりになっていったし、何よりも素敵な「オトナの女性」になっていった。
そのままほとばしるMCもどんどん秀逸になっていった。

ある時「いい女になったね」と言ったら、「そうすか?嬉しいなぁ」と照れていた。
なんでいつも男口調なんだかわからないけど、彼女の素直さは初めて出会った時からぜんぜん変わっていない。

そしてようやくだ。彼女の最初のミニアルバム「ひとりよがり」が完成したのは。

6月11月の野毛スモーキーはそんな彼女のレコ発ライブだった。

ユキスズキ(1部、4部)とさとうみゆちゃん(2部、3部)のツーマン。1部のユキスズキはカバーソングだらけ。
セトリを控えてなかったのだけど、一つ言えるのはレコ発のクセにカバーと未収録チューンばかり歌うという「ひとりよがり」だった。

そしてその「ひとりよがり」を含めて面白がっている自分がいた。
MCのマザー牧場の羊に大笑いしたんだか涙が出たんだかのトークも面白かったな。

ラストはまさかのあみんの「待つわ」のカバー。
これ、あみんが歌うと「待つことしかできないか弱くて純情な女の子」なんだけど、ユキスズキが歌うと「夜道での待ち伏せ」感が出るから面白い。

「10年待ったよ」と彼女から買ってからというもの、何度も何度もこのCDを聞いている。
楽器編成は実にシンプルでドラムスとピアノだけ、曲によってはスティールギターが入っている。
とてもシンプルだけど美しいミニアルバムだと思う。心にじわんとしみてくる。

こちらはがさつなアスファルトの道で、彼女の音楽は6月の雨だ。
豪雨ではないから、じわりじわりとしみこんでくる。

1.六月の雨
ポカちゃんこと保刈あかねのコーラス入り。
雨の情景を映し出すような中間のピアノプレイがたまらない。
https://youtu.be/D5jfj9vrPZo?t=7m49s

2.シナモンロール

初期のオリジナル作品のひとつ(だと思う)。Bメロのコード進行が好き。

3.Sunday Town

これはユキちゃんしか作れない作品だと思う。スティール・ギターが入っている。

4.Feel and Think
これも好きな曲。ジャジーで洗練されたスタイルなんだけどソウルフル。
https://youtu.be/D5jfj9vrPZo?t=25m8s

5.Blue Driving
ひとつひとつの音が持つ「鼓動」が、彼女の息遣いに至るまで感じられる佳曲だ。

シンプルなアレンジだけど、彼女のピアノは情景をうまく伝えてくれるし、何よりもボーカルがよく伝わってくる。
作品のひとつひとつに強い個性があって、お互いが埋没しあっていない。
しかもレベルが高い。だから飽きない。

手売りでしか買えないのがもったいないなぁ~とは思った。
だからこそ「ひとりよがり」なんだろうな。

また彼女が何を爆発させたいかわからなくなる時があったら、答えは簡単だと思う。
とりあえず何もかも爆発させてスッキリした部分が爆発させたかった部分だっていうこと。

ユキスズキ on Twitter
〇〇ときどきゆき。(blog)