59喉とTASKE(無力無善寺Live)

ライブレポ

3月15日、いやすでに時計の針は16日になっていただろう。
深夜にもかかわらず年度末の工事渋滞をしている環八を運転しながら、僕は横に乗る59喉と話をしていた。
「あれは反則だろ」
「最もプリミティブな音楽の形じゃないのかな」
「参った....」
「確信犯なのかな、それとも地なのかな」

すべてはたった一人のアーチスト、TASKEに向けられていた。
有志によるTASKEの動画(あいさつ)
有志によるTASKEの動画(ストリートライブ)

そもそもTASKEの存在を知ったのは、インターネットのコミュニティだった。見るからにアブナイというか危険な雰囲気を持ち、鈴や太鼓、そしてカシオトーンのキーボードを鳴らしながら、一直線に歌われてゆくその音楽世界に、とても興味を感じていた。

そうした矢先、3月15日に、59喉とTASKEが名前を連ねたライブが行われたのだ。場所は高円寺のライブハウス無力無善寺だった。

JR高円寺駅のほうから阿佐ヶ谷方面へと向けてガード下のうす暗い商店街を歩いてゆく。立ち飲み屋、焼き鳥屋、沖縄風居酒屋、古本屋など雑多な店が並ぶ一角、狭い階段を上ったところに、そのライブハウスはある。

店内はそんなに広くない。壁際にソファーが4つ、それ以外は椅子もなく、舞台正面にズラリと並んでいるお風呂用の腰掛けがそのかわりのようだ。「可愛い怖い」とでもいうのだろうか、赤ちゃん用のつりさげオルゴールが天井からつりさげられているかと思えば、「南無妙法蓮華経」と書かれた木の札もかかっている。マスターが書いた放送禁止用語連発のメッセージが貼ってあるかと思えば、可愛らしい猫の絵がところどころに貼ってある。寺山修司の天井桟敷の世界に迷い込んだような錯覚を感じる。そう、70年代風のアンダーグラウンドな世界とでもいうのだろうか、この雰囲気がこのライブハウスの音楽性を予感させる。
無力無善寺
店内に入ると、いきなり大入道のような人物があらわれて、「千円です」という。これがマスターの無善法師さん。千円はドリンク代込みの入場料だ。このライブハウスは千円を払いさえすえば、出演も観賞もできる。この価格の安さにひかれて、多くのミュージシャンと観客がこのライブハウスには集まる。彼らはとにかく自分自身の音楽を人に伝えたくて、いや自分自身の個性を人に伝えたくて、この場所に集まってくるように思えた。

59喉は、横浜駅西口を中心に数々のストリートライブをこなしている。生ギター一本のステージだが、サウンド的にはロック的なものを感じる。自ら「アコースティックパンク」を標榜するように、攻撃的で挑発的な歌詞が印象的だ。音楽的な表現にしっかりウェイトを置きながら独自の世界を創造しようとしている。
59喉
無力無善寺では初ライブだったのだろう。いきなりトップバッターとして出演した。驚いたことに、この半年の間に59喉はずっと成長していた。中高域の声の張りがとてもよくなったというのもあるが(♪そりゃ当然だわな♪)、何よりも場数をこなした人間の持つオーラというのか迫力というのか...観客に対峙する力、圧倒させる力がずっと強まったような印象を受けた。
ギターをかきならして破壊寸前の59喉
彼にとってはこのライブハウスの方が横浜駅西口よりはずっと居心地の良い場所だとは思う。雰囲気もさることながら、アンダーグラウンド的な音楽を共有できる出演者と観客のいる場所だからだ。逆に言えば、もっとやりにくい筈の横浜駅西口で経験を重ねた半年の日々が、確実に彼にとってプラスになっているのだと思った。

いっぽうTASKEだ。
TASKE
一本調子のノートとカシオトーンの不協和音、そして体中にくっついて鳴らされる鈴、太鼓の連打。そして不思議な歌詞。生で聞いた瞬間に「これはギリギリの音楽だな」と思った。世界中のありとあらゆる音楽の中で、最も崖っぷちの危険な場所に存在する音楽かもしれない。計算され尽くした緻密な音をクリエイトするコーネリアス(小山田圭吾)が、彼を前座に起用した意味がなんとなくわかった。

帰り際の車中で59喉が「参った」を連発していた。僕も「やられた」を連発していた。
59喉は「あれは絶対勝てませんよ」とも言っていた。そりゃあそうだ、GLAYも倖田來未もベートーヴェンも勝てないだろう。だって崖っぷちに平然と居座れる音楽だもの。悟りを開いた禅僧みたいな音楽だもの。
TASKE & トミー
でもよく考えてみれば、59喉が自分というものを音楽を媒介にして表現しているのに対して、TASKEはストレートに自分を表現している、音楽は彼の自己表現をサポートしているにすぎない。ミュージシャンというよりは詩人に近いとも思った(間違っていたらTASKEクン、ごめんね)。これは良し悪しの問題ではない。個性の問題だろう。音楽観の問題だろう。だから本当は他の誰とも比較できるものではないし、比較できる基準は好悪でしかない。

ただ、TASKEほど自分をストレートに観客に投げつけるアーチストを見たことがない。このことは忘れちゃいけない。受け手の僕には、そのインパクトが今でも余韻として残っている。

これは59喉にもわかっているだろう。だから、
「今日は色々持って帰れたんじゃない?」
と尋ねたら、
「もうホント沢山持って帰れますよ!」
と言っていた。
そんな59喉に今後も期待したい。

ステージ後にTASKE、彼のよきパートナーであるトミーさん、そして59喉から貰ったサインがこれ。
サイン
一生の宝物にしよう。

追伸 : 投げつけられたインパクトにあたったのか、帰宅後風邪をこじらせた僕は、昨日はウンウン言っておりました。

ライブレポ