ムッシュかまやつ Live at “The Road And Sky”

ライブレポ

長年の間、邦楽アーチストの中ではダントツに神のように尊敬申し上げていたにもかかわらず、一度たりともそのお姿をお目にかかったことがなかった。ズルいことに僕の妻は京都の新京極の雑踏の中で彼がボーッと立っているのを見かけたことがあるにもかかわらず、だ。

その人の名は「ムッシュかまやつ」。

こんなスゲー人が金沢文庫にやってきた。しかも赤い電車に乗って....金沢文庫駅からフツーにタクシーに乗って会場にやってきた。場所はThe Road And Skyというレストランバーだ。オープン8周年の記念パーティーにゲスト出演というふれこみらしい。

金沢文庫なのにサーファー御用達(らしい)のその店は、見るからに70年代ウェストコーストの雰囲気がある。ムッシュといえば60年代ブリティッシュのイメージが強いんだけど、オーナーの知り合いがムッシュの知り合いという関係で、この5年ほど開店○周年記念パーティーには必ずかけつけているらしい。「灯台もと暗し」とはこのことで、まさか御大がこんな近所でライブやっているとは想像だにしなかった。まあとにかく店内に入る。お店のお客さんの大半が常夏&常連という雰囲気で、「サーフィンやってます!」という感じだったが、中にはそれらしくないのがいて(僕とかね)、そういうのは大体「ムッシュが来る」ということだけでよーわからんままに押しかけていたようだ。

まずはTESTRIDERSのステージ。湘南を中心に活動する結成20年のベテラングループ。メンバー全員が現役サーファーで、その筋では大変有名なバンドなんだそうだ。音楽的にはオリジナルだけど、70年代のウエスト・コーストサウンドっぽくてRy CooderとかJackson BrownとかLittle Featとかが入っていた(あるいはRolling Stonesも入っていたかも)。とっても手堅いサウンドのバンドで、いきなり店内が盛り上がった。えっ、誰だい「サーファーのバンドならベンチャーズでテケテケじゃないの?」って言っている人は。そりゃあ僕が生まれた頃はそうでしたけどね。
TESTRIDERS
そして休憩時間に店内をブラブラしていたら、スパイダーズのメンバーが写っている古いアルバムを他のお客さんに見せている年配の女性がいらっしゃった。強引に割り込んでお話を聞けば、リアルタイムでスパイダースの追っかけをやされていた方とのこと。メンバー一人一人のショット(しかも直筆サイン入り)や、1966(昭和41)年のファンの集いでマザー牧場に行った時の写真、日劇ウェスタンカーニバルのステージなど珍しいものばかりだった。この頃のスパイダースといえば、まだ「夕陽が泣いている」でブレイクする以前で、まだまだファンと密接だった時代のものばかり。とても貴重だった。ちなみにこれは許可を頂いて撮影させてもらったファンクラブ会員証。
ザ・スパイダースファンクラブ会員証
なお。当時の彼らの事務所はSpiduction(スパイダクション)で、これが僕のHNになっているわけだが、一連の写真は1966年のモノが多く、まさに「スパイダクション66」だった。

この方もバンドをやっているらしくて、Spring Showerという名前でBlue Jayにも出演しているらしい。Blue JayといえばリョウちゃんのThe Losebeatの定期ハコだからして、今後も不思議な縁に期待したい。

と、こんな感じで話しているそばをノソノソ横切るようにして突然ムッシュが登場した。おん年68歳(!)、黒のロングコートに毛糸の帽子を被った御大は、ギターを抱えて若干背中を丸めながらゆっくりステージに近づいてゆく。その姿はまるでギターを杖にした哲学者のようだった。
ムッシュかまやつ
初めて生で見るムッシュだった。しかも距離にしてわずか2m足らず。僕は「ムッシュー」と叫びながら彼の音を全身に浴びていた。「バン・バン・バン」や「ゴロワーズ」などのオリジナルをやるかと思えば、「Rolling Stonesやろうか」とか言って「Walking The Dog」「Susie Q」なんかもやっていた。
ムッシュかまやつ2
基本的にレストラン&バーだから、店内のライブは外部にまる聞こえだ。ムッシュの姿をもっとよく見ようと、お店の外へ出て歩道で踊っている人もいる。どうもそんなこんなからか「騒がしい」と近所から通報があったようで、ステージも佳境の時、お店の外(国道16号線の歩道)に警察の方々が集まりだした。丁度Rolling Stonesの「Satisfaction」の最中のことだった。その時にデジカメで撮影した動画がコレ。

お店のオーナーがすっ飛んでって警察官に説明していたけど、考えてみればこれは最高の演出。店内はさらに狂乱状態となってしまった。ムッシュといえば、ベルリンの壁が崩壊した際、偶然ベルリンにいて、壁の上で「バンバンバン」を歌ったことがあったけど、「偶然」を音楽の力に変えてしまうことにかけては強運の持ち主じゃないかと思う。だからこそ浮き沈みの激しい芸能界で47年(!)も生き残ってきたのだと思う。
070311_police.jpg
外の雰囲気に気づいたムッシュは、お次は名曲「どうにかなるさ」を、わざと小声でコソコソ歌ったかと思えば、店の外で警察官と話しているオーナーに対して「しっかり(警察署)行って事情を説明してきてね~」などと言っていた。
ムッシュかまやつ3
最後はアンコールに次ぐ強制アンコールで「Johnny B Good」で終了。
ムッシュかまやつ4
いい年の重ね方をしている人だと思った。「若い者には負けんぞ」的な気負いもなく自然体なのにカッコいい。ヘンに「ワル」を気取らなくても「ワル」主張しなくても、「ワルガキ」の雰囲気が出ていた。
真のミュージシャンだと思った。
最後にステージを去る時、皆に混じって御大の背中に触れた。通りすがりに上品な香水の匂いがした。御大、また見に行くからね!

ライブレポ