4/14 エリック・クラプトン at 日本武道館レポート

ライブレポ,上大岡的音楽生活

行ってきました。エリック初プトン。

以下、それなりに聞いているつもりだけど、一度も生でクラプトンを見たことのない人間によるライブレポです。

01: White Room (Cream)
いきなりこのCreamの名曲だ。会場は大盛り上がり。
すっかりお爺さんになっていたのにはびっくりしたけど、ボーカルを聞いても、ギターリフを聞いても、ソロを聞いても、どこをどう切り取ってもクラプトン御大の音だ。重みと渋みがあって、歴史があって格調が高くて、そういう積み重ねからなる重量感のようなものが一気にこの曲に乗っかってやってきた。それだけで感激する。後で知ったのだけど、この曲を日本公演で演奏するのは22年ぶりだったそうだ。

高いキーのBメロ"I’ll wait in this place where the sun never shines"あたりは二人の女性コーラスが引き受けていた。「なるほど、そこはそうなっとるわけだな」とそういう風に納得をする。ライブ全体では、キーボード1、電子ピアノ1、クラプトン以外のギター1というシフトで、今までだったらクラプトンが延々とプレイしていたであろうソロパートを分担していた。

考えてもごらんよ。Creamというバンドはこれをたったの3人で出していたんだよね。

02 Key to the Highway (Charles Segar)
クラプトンのライブに行った経験のある人から前知識として聞いていたのは「MC全然ないよ、愛想悪いよ」。
そして「下手するとライブが一時間ちょっとで終わる」という恐ろしいものだった。
確かにこの曲に進んでもMCはなかったけど、決して愛想が悪いという印象はなかった。むしろ本人も楽しんでいるし、きちんと観衆の伝えようという気持ちを感じていた。

03 I’m Your Hoochie Coochie Man (Willie Dixon)
これだよこれ。歴史は繋がっているんだって音楽を通して感じる瞬間。ウィリー・ディクソンの書いたこの曲を誰よりも有名にしたのはマディ・ウォーターズ。彼は僕が高校生の頃に亡くなったしまったけど、クラプトン御大は何度もマディと共演している。映画『The Last Waltz』に限らずだ。その音楽的DNAを引きついだ御大が、いま目の前でマディの曲をで歌っている。これに感動しないわけがない。こういう所は音楽も落語も変わらないなぁと思う。

04 Sunshine of Your Love (Cream)
きたよこれ。「愛想悪い」なんてとんでもない。きちんと自分の過去のヒット曲を網羅して、僕のような初見の観客も楽しめるような構成になっているじゃんと思う。

この曲は元々、僕が中学生の頃にミーハーな姉貴からロゼッタ・ストーンのカバー曲で教わった曲で、高校生になってクラプトンを聞き始めるまではクリームがオリジナルだと知らなかった。

僕はクラプトンのキャリアの中では、クリーム時代が一番好きだ。The Whoも凄いけど、クリームの3人が作り出す音の重量感は半端ない。もう奇跡に近いのではないかと思うし、彼らがいなかったらThe Who『Live At Leeds』もなかっただろう。この曲が収録された『Disraeli Gears (1967)』は聞きまくったものだ。実はそれ以上に愛情があるのが、陰鬱気味で小品がずらりと並んだ『Fresh Cream (1966)』だ。そういう自分の過去を回顧しつつ、眼前の演奏を聞いていた。

05 Kind Hearted Woman Blues (Robert Johnson)
ここからアコーステイック・セットが続く。一曲目はロバート・ジョンソンのカバー。手拍子で会場も盛り上がる。
考えてもごらんよ。僕が生まれる前にはすでに「Clapton Is God」と言われた男で、高校生の頃に「クラプトンがギターが上手いのは実は指が六本あるからだ」というミームが僕の周辺では語られた男で、クリーム時代にロイヤル・アルバート・ホールで、わずか3人で伝説のような演奏を作り上げた一人で、ジョージ・ハリスンの奥さんの事が好きになってしまう中で薬物中毒になってしまった男で、映画『トミー』では変ちくりんな恰好で『Eyesight to the Blind』を演奏している男で、4歳の息子を転落死で亡くした男で...そんな事を色々知りつつ生きてきて40年がたって...初めてその本人が眼前でロバート・ジョンソンのカバーまでしている。もうそれだけで感無量だ。

06 The Call
07 Motherless Child (Robert Hicks)

08 Nobody Knows You When You’re Down and Out (Jimmy Cox)
まさか生で聞けると思わなかった。好きで好きで仕方のないブルースで、色々なバージョンを聞いてきた。
「最古」と言われるボビー・リーカン (1927)から、ベッシー・スミス (1929)、ニナ・シモン (1960)、サム・クック (1965)、スペンサー・デイビス・グループ (1966)、オーティス・レディング (1968)、ヴァン・モリソン (1969=未発表)、デレク・アンド・ザ・ドミノス (1970)以降、クラプトンも何度カバーしたかわからない。もうこれを聞けただけで元が完全に取れたと思った。

09 Golden Ring

10 Tears in Heaven

転落死した亡き息子に捧げた曲...なんだけど『アンプラグド』のようなしんみりしたアレンジではなく、ビギンのリズムに乗せた軽快な作品となっていたのに驚いた。あの悲劇からもう35年は経っただろうか。祈りながらもそこを解脱した感じ。何か振り返るものが息子との心地よい瞬間に思いを寄せるようになったのかな。そんな印象を感じた。

11 Badge (Cream)
ここから再びバンドセット。
これまたクリーム時代の作品で、ジョージ・ハリスンとの共作。2曲連続で故人を悼む感じかな。
曲がブレイクする所で、やたらとブレイクを引っ張るんだよね。『Yes, I told you that the light goes up and down』の前、曲調が変わる部分ね。

クラプトンの生演奏で聞きたかった曲がもう一曲あって、クリーム曲ではアルバム未収録だった『Anyone for Tennis』という超マイナー曲。これも『Badge』と同時期じゃないかと思う。後で調べてみたら、この曲は毎回ライブ演奏されていないようだ。

このPV(『Smothers Brothers Show』)への出演が相当嫌だったそうで、クラプトンが嫌そうな顔をしている。これが理由だったりして。

12 Old Love



13 Wonderful Tonight

定番のバラード曲。何と歌いだしに間に合わず、あわててマイクに近寄って歌いだすというハプニング。会場大爆笑だった。クラプトンもニヤっとしていた。

この曲、近年のライブでは演奏しないものだと思っていたのだけど、ちゃんとプレイするというところが「クラプトン愛想悪いことないじゃん」と思った。ポール・マッカトニーもそうだけど、一回きりしかこない観客がいるという事をよくわかっていて、ヒット曲を網羅したセトリを用意しているんだよね。多分僕のような観客のために。


14 Cross Road (Robert Johnson)

冒頭からブルースソロで始まり、次第にそうかなと思っていたらきたよこれ。クリーム時代にサンフランシスコでの神演奏がシングルとなったやつ。あの時代の重機が飛び跳ねるような感じは出せないし、今の演奏はもっと軽いものになっているけど、とにかく僕はクリーム3代表曲をすべて聞けたわけで。何よりの時間だった。


15 Little Queen of Spades (Robert Johnson)

クラプトンという存在はオリジナル曲も素晴らしいのだけど、彼の役割は「ブルースの伝道者」。映画『トミー』でもそんな感じの役割を担っていたけど。彼の作品を介して、僕は沢山の古いブルース曲を知ることができた。その究極の到達点が1991年に発売された伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンの『The Complete Recordings』だった。僕はロバート・ジョンソンをクラプトン・ルートで聞くことになり、それは戦前に古いブルースを聞き始めるきっかけとなり、以降心斎橋や堺の輸入盤屋さんをウロウロしながら、ベッシー・スミスとかアイダ・コックスとかブラインド・ウィリー・マクテルとか入手していったのだ。

16 Cocaine (J.J. Cale)

最後はこの曲。歌詞の「Cocaine」という部分では客席に照明が当たり、観客がみんなで「コカイン」と歌うようになっていた。

アンコール Before You Accuse Me (Bo Diddley)

隣の人は「アンコールは一回しかしない」ことをわかっていて、この曲の演奏が終わると、サーッと席を立って会場を出ていった。大勢のお客さんはまだまだ未練があった。というのは「レイラ」をプレイしていなかったからだ。

僕はクリームをみっちりプレイしてくれたからむしろ満足だったけど、まあそうだと言えばそうなのだろう。

会場のモニターにはギターソロのクラプトンも指先がガッツリ映されていたけど、80歳を感じないスムーズな動きが美しく、ホッともした。それに安心して来ると、自然と2人の鍵盤プレイヤーを注視するようになっていた。

このライブを見ている間に、自分の中にムクムク持ち上がった気持ちがある。それをここに書いてしまおう。
今僕は59歳だ。クラプトンの年齢まであと20年がある。クラプトンは1945年に生まれ、1965年つまり20歳の頃には「神」と呼ばれるギタリストとなっていた。20年というのは本来そういう時間だ。

2人の鍵盤(ティム・カーモン [Ogn.]とクリス・ステイントン [pf.])のプレイは実にクールだった。自分もこんなプレイができたらどんなに素晴らしいだろう。僕はなんとなく(自然発生的に)鍵盤弾きとしてバンドに加わったり(加わらなかったり)してきたけど、次の20年では、ガッツリピアノを学んでみようと考えた。それもブルース・ピアノではなくジャズ・ピアノだ。これを理論も含めて学んでみようと考えた。これを人生の次の目標にしようとそう考えたのだった。

問題はどこで誰に学ぶか?だ。

ライブレポ,上大岡的音楽生活

Posted by spiduction66