エルヴィス・コステロ & スティーヴ・ナイーヴ in Japan 2024 at 浅草公会堂

ライブレポ,上大岡的音楽生活

そうだ、僕にエルヴィス・コステロを教えてくれたのは高校時代の友人のコクボ君でした。

コクボ君は学年で一番ギターが上手いヤツでした。だけど水泳の潜水が苦手でした。彼だけはどうやってもプカリと浮いてしまうのです。まあそんな事はどうでもいい事で、彼とはよく音楽談義も論争もしました。そして僕にコステロとトーキング・ヘッズとジョン・コルトレーンを教えてくれたのです。そして僕はピーター・ガブリエルとザ・フーを教えたのです。でも小久保君は上記のような「スタイリッシュな」サウンドが好きだったから、僕の熱意がどこまで伝わったかは自信がありません。

そんなエルヴィス・コステロの来日公演...追加公演は『浅草公会堂』という実に渋い場所でした。

浅草公会堂が演歌のメッカなのはもちろんですが、

コステロを一言で説明するならば、ミスチルの桜井君がモロに影響を受けたアーチストです。

たとえばこれ聞いたら納得頂けるんじゃないかと思います。

ずばり「イノセント・ワールド」ですね。

さて浅草は演歌の聖地です。

浅草有線放送のおばちゃんは日本で一番演歌にうるさい人だし、伝法院通りには演歌歌手が衣装を買うお店がズラリと並んでいます。演歌老舗のレコード店『ヨーロー堂』もあれば『宮田レコード』もあります。10年以上前、演歌歌手のまつざき幸介さんがまだ駆け出しだった頃、一緒に何度も訪れている街なのです。

宮田レコード

そんな伝法院通りと宮田レコードに挟まれた場所で「スタイリッシュ」なコステロのコンサートですからね...いや演歌も「様式美」という意味では充分スタイリッシュなんですが、およそ真逆の音が隣り合わせになるんだから、こんな面白い事はありません。

今回はバンドではなくコステロ (Vo. & Gt.)とデビュー当初からの盟友スティーヴ・ナイーヴ(pf. & Key.)の二人だけ。ギターとピアノによるいわば「アンプラグド」な形ではありますが...いきなり打ち込みのシーケンサーをまわしてダブ風の「Watching The Detectives」と「Shot With His Own Gun」のまぜこぜバージョンからスタートでした。

ええコステロは相変わらずスタイリッシュでしたよ。色違いのボルサリーノの帽子をピアノの上に置いてね。途中で被りなおすんですが、それだけで観客がワーッという具合。

お次はコステロのエレキ弾き語り、ナイーブがピアノとキーボードを駆使しての「Radio Radio」、お次が「Clubland」...とこんな事を書き連ねても面白くないわけですね。そもそもこれ以降は知らない曲もかなり多いし、よく覚えていない。

ひとつ感じたのはロッドやジェイムスがベストアルバムを聴いてれば何とかなりそうな「お約束セトリ」なのに対して、コステロはサウンドもセトリも現在進行形なんですよ。

サウンドはいい感じに枯れている(アンプラグドですからね)のですが、決して懐古趣味じゃない。いきなり原曲と似ても似つかないダブサウンドにしてしまう所もそうですが、今回の4公演(すみだトリフォニー×2、大阪シンフォニー×1、浅草公会堂)、まったくセトリが違うのには驚きでした。それは今なお彼が表現者として試行錯誤をしているんだと思ったのです。

トリフォニーではパイプオルガンで「Shipbuilding」をやったそうですが、これはやらなかった。くそう悔しくなんかないぞ。

でもトム・ウェイツの「More Than Rain」、昨年亡くなったバート・バカラックとの「I Still Have That Other Girl」「Look Up Again」はプレイしてくれました。特に「I Still」は涙ものでしたよ。名曲「She」もお約束なんでしょうね。ええボーカルよく出ていましたよ。69歳とは思えませんでした。

長年の盟友であるスティーブ・ナイーブとのコンビ、二人でステージで立ち話しながら、どんどん次の曲を繰り出してゆくんですよ。老練な二人のなんともコミカルなやりとりもあったりして、僕には映画『ライムライト』のチャップリンとバスター・キートンのコントのように見えました。

あとは「I Want You」と「Peace, Love And Understanding」と、えーとーえーと...まあいいかぁ。ラストは「Alison」でした。

そうそう、エレベーターの中で80代をとうに越えた背中の曲がって杖をついたおばあさんと会いましてね。「コステロお好きなんですね」と話しかけたら「もう40年以上ファンをやってまして、今回も全部回っています」との事でした。

さて、話をコクボ君に戻します。

彼とは音信不通になって20年以上が経ちました。数年前に自宅の薬局(市川市鬼越)に寄ったらマンションに建て替わっていました。風の噂ではプロのギタリストを断念して薬剤師になったらしい。いや、あるいはどこかでスタイリッシュな渋いギターをプレイしているかもしれません。

そんな音信不通でも友は友なんだろうな。いや音信不通でいいんだ。彼が僕に教えてくれた音楽の数々は、しっかり僕の中にあって、こうしてコンサートに行っているわけですから。

ライブレポ,上大岡的音楽生活